zinma Ⅲ
「ま、マーガット中将!!!」
後ろから何者かが駆けて来る音がする。
「こ、これはいったい………
マーガット中将!!中将!!」
駆けてきた者はマーガットのそばまで近寄ると、まだ呆然としたままのマーガットの肩を揺すった。
「しっかりしてください!!
いったい何が……っ!」
慌てているらしいその声に、ゆっくりとマーガットは顔を上げる。
見覚えのある顔だ。
たしか、連絡係の…………
「君は………王都へ向かった……」
静かに、小さく言ったマーガットの声に、連絡係は少し安心したように息をついてから、また慌てはじめる。
「そ、それどころではないんです!
それが…王都の本部へは行ったのですが………」
そうだ。
逃亡者を確保したことと、拷問の許可を取りに行かせたのだ。
軍の本部にいる、ドープ元帥に……
「それが……それが、ドープ元帥はあの化け物の話は受け付けないと……もう関わるな、と……」
相変わらず呆けた顔でマーガットはその言葉を聞いていた。
「いえ!私も何度も謁見を申し出たのですが、ドープ元帥は……その……軍を退くと………。」
そこまで聞いてマーガットはすべて悟った。
すべてが彼の思惑どおりだったのだ。
結局、最後の最後まで、勝ち目はなかった。
自分たちは、彼の筋書の上を躍らされていただけ。
「……………はは。」
マーガットは渇いた笑い声を小さく上げて、一気に込み上げた疲労に任せて、深い眠りに落ちて行った。
「おいおい。やりすぎだ、レイシア。」
ロギは目の前の光景に、呆れたような、しかしとても楽しそうな笑い声を上げて顔を覆った。
突然地震が起きたかと思ったら、最上階の第一級監獄が崩れ、その下にある第二級監獄、ロギが投獄されていたところに落ちてきた。
死んだかとも思ったが、見事に天井が消え、壁も崩れたのみで、ロギがつぶされることはなかった。
「………よく晴れてる。」
空は真っ青に晴れ渡っていた。
もうしばらく見ていなかった太陽。
夢にだけ見ていた空。
いまが昼だということも、知らなかった。
「………逃げろってか……?」
ロギはだれもいない牢獄の中で、楽しそうにそうつぶやいた。
あれだけ脱獄するつもりはなかったけど。
いざ空を見てしまったら、この空の下に駆け出したくなった。
「………いつか、会えるといいな。レイシア。」
ロギはまたそう言って笑うと、瓦礫の上に、一歩足を踏み出した。