zinma Ⅲ
普通の人間なら信じられる話ではない。
人によっては、嫌悪した目で彼らを見るかもしれないほど、突拍子のない馬鹿みたいな話だ。
しかしレイシアの話を聞いたあとのティラは、驚いた顔はしなかった。
眉をひそめて目を細め、考え込むような、焦るような顔をした。
猫のように少し釣り上がった大きな赤い瞳を、切羽詰まったような色に染めていたのだ。
そのティラの顔を思い出し、レイシアは軽く振り向いて野宿をするはずの場所のほうを見つめる。
「……彼女には何か心当たりがあるようですね。」
独り言のようにつぶやいたレイシアに、シギは眉をひそめる。
「……確かにさっきの彼女の反応は気になります。
しかし今の師匠はそれどころではないでしょう?」
それにレイシアは少し目を見開く。
「というと、なぜです?」
それにシギは一度ため息をつき、呆れたように拾った槇を右肩にかつぐ。
「なぜも何もないでしょう?
あの要塞はなんですか。やり過ぎにしか見えませんよ。正直、外で要塞が爆発する様子とか、女神が何人も現れたり、召喚までしたのを見ていたら、心臓が止まるかと思いましたよ。」
それにレイシアは声を上げて笑う。
「ははは。傑作だったでしょう?
あれだけやれば軍もしばらくは大人しいでしょうし、聖霊召喚の練習もしておきたかったものですから。」
にこにこと微笑みながら言うレイシアに、シギはまた大きくため息をつくと、振り向いてある方向を向く。
「まあ、師匠があれだけやったおかげでティラもあの話を信じたのかもしれませんからね。
それにしても、師匠は怖いです。」
またそれに笑いながら、レイシアもシギと同じ方を向く。
「今晩のうちにティラさんが落ち着くといいですが………」
そうつぶやいて、レイシアは目を細めた。