zinma Ⅲ









ティラは木の上から夕日を眺めていた。

夕日もほとんど沈み、暗くなってきた空の向こうで、地平線だけがぼんやりと明るい。



ダグラスとティラは、野宿をすることになった森の中の少し拓けた場所にいた。

まだ小さなたき火をたき、ダグラスは少し長めの木で火をつついて調節しながら、考え込むような顔で静かに座っている。



レイシアとシギは薪を集めるために今はここにはいない。



ティラは木に登って、もうどのくらいになるのか、しばらくぼんやりと過ごしていた。




そこで、一番星が空に輝いているのを見つける。


それを見上げて、ティラはレイシアの言葉を思い出した。







『私はただの旅人ではない。
しかし事情が入り組んでますので、簡単に教えます。

まずシギ・サンはルミナ族の生き残り。

ダグラス・ディガロは元王家直属軍の大佐。

そして私は、人にはない力を持っている、とだけ言っておきましょう。』






ティラは視線を下げ、もう暗くなった地平線を見つめて自分の両足を抱いた。




レイシアの話を信じるつもりはなかった。



シギがルミナ族だなんていうのは、得に信じられない。

ルミナ族っていうのは、子供が読むような馬鹿みたいな絵本に出てくる言葉だ。

ドラゴンだとか、ファルコンだとか、そんな子供だましの存在。

いや、確かに真実である可能性もある。

実際にシギはあの要塞のところで、何もないはずの空間にきらきらした模様を描いていた。

しかし見間違いという可能性もある。

何か毒でも飲まされて、幻覚を見たのかもしれない。


とにかく、魔術だか魔力だかしらないが、そんなお伽話に出てくるような存在が、この世にあるはずがないのだ。



ダグラスが軍にいたというのは、真実である可能性が高い。

ダグラスの身のこなしや、やたら落ち着いたあの態度。

いつも自分やレイシアの相手をしては怒っているように見えるが、瞳の奥では常に冷静に状況を見ているのを知っている。

軍で指揮をとっている奴によくある目だった。




シギの話は嘘の可能性大。

ダグラスの話は真実の可能性大。



ならばレイシアの話はどうなのだろうか。


不思議な力を持っているというが、これもシギの話と同様、信じがたい。

だが確かにレイシアは目の前であの馬鹿でかい要塞を破壊してみせた。

地震によって崩れたようにも見えたが、それにしては事が上手くいきすぎている。

あの要塞がたかが地震で崩れるとも思えない。

あの高い要塞の屋上で何が起きていたのかはさすがに見えなかったが、かすかに火の手や、水や、水蒸気が見えた。


あの要塞の上で、何があったのか。

ただの人間があれだけ要塞をボロボロにすることが可能なのか。


レイシアについてはもっと深く考える必要がある。
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