zinma Ⅲ
そこまで考えて、ティラはレイシアの言葉の続きを思い出す。
『私たちの目的は、あるモノを探すこと。世界中に散らばっているモノです。
それも私やシギと同様、人には信じてもらえないもの。
もしもそれを人間が手に入れてしまうと、その人間は恐ろしい力を得てしまう。
それを防ぐために、私たちはその力を集めているんです。』
ティラは足を抱いた手に力を入れた。
人にはないはずの力。
この話が真実か、否か。
これについては答えが出ていた。
「ティラ。」
突然声をかけられて、思わず身体が跳ね上がる。
それに枝から落ちそうになりながら、なんとか木にしがみつき、声がするほうを見下ろす。
するといつの間にか、相変わらず落ち着いた顔のダグラスが、木の下に来て、ティラのほうを見上げて両腕を組んで立っていた。
「………何?」
あまりに驚かされたので少し不機嫌そうに聞くと、ダグラスは困ったような、申し訳なさそうな顔になってため息をつく。
「話がある。降りてこい。」
ティラはダグラスの横に、しかし少しだけ距離を空けて並び、たき火に当たった。
ダグラスはティラが降りてきてからも、静かな顔でたき火をつつくのみで、黙り込んでいる。
ティラもあえて声をかけることなく、膝を抱いて縮こまり、膝の間から小さなたき火を見つめていた。
どのくらい経ったのか、しばらくして。
「お前、レイシアのことを疑っているのか?」
突然口を開いたダグラスに、ティラは微動だにしないまま少し黙る。
その間もダグラスは黙ったまま、薪の弾ける音だけが響く。
しばらくして、ティラが口を開く。
「………当たり前じゃない。
100人に聞いても100人が嘘だって言うわ。」
それにダグラスは小さく笑う。
「はは。それなら俺は101人目だな。俺はレイシアのことを信じてる。」
「そんなこと聞いてない。
人は平気で嘘をつく。あたしは自分で経験したことしか信用しないのよ。」
静かに淡々と言うティラをダグラスは横目で一瞥すると、口の端を上げて笑う。
「ふん。良い心掛けだな。
一人で生きていくには大切なことだ。
軍人に向いてるのかもな。」
それにティラも静かに笑う。
「ふふ。軍人なんかにはならないわよ。一番嫌いな奴らだもん。」
ダグラスはそれを聞いてわざとらしく驚いたようながっかりしたような顔をしてティラを見る。
「おいおい。俺も元は軍人なんだぞ?少しは気を使え。」
その顔をティラも見て声を上げて笑うと、右手で軽くダグラスの左肩を殴る。
「もう、うっとうしいわね!わかってるわよ!」
ダグラスも笑うと、ティラは安心したような笑顔になって、またたき火を見る。