zinma Ⅲ
「………でも、ほんとにダグラスのことは信用してる。他の軍の奴らとは違うし。それに……」
そこで言葉を止めたティラを、ダグラスの思慮深い碧眼が見つめる。
その瞳をティラも真っすぐに見つめ、そしておどけるように笑う。
「なんだか、お父さんみたいだから。」
ダグラスはそれに今度こそ本気で驚いた顔をして、大きく目を見開く。
「………は?おいおい、信用してもらえるのはありがたいが、父親?はあ………お前俺を何歳だと思っ……」
「何歳も何も、あたしからしたら十分おじさんじゃない!」
そう言って声を上げて大きくティラが笑う。
その顔をダグラスはしばらく呆然としたように見つめ、そして同じように声を上げて笑う。
静かだった夜空に、2人の笑い声が響く。
「あは、ははは、あはははは、はあ………おかしい…はあ……こんな笑ったの……久しぶりだなあ……はあ。」
笑いすぎて流れ出た涙を右手でぬぐいながら、息つぎ混じりにティラがそう言う。
「はは、お前ほんといい加減にしろよ。何がおじさんだ……」
ダグラスも笑い混じりに言うと、ティラもまた吹き出しそうな笑いを手を口に当ててこらえる。
またしばらく落ち着くまでたき火を見つめ、2人がまた黙り込んだころにティラが口を開く。
「……あのね、あたし、お父さんの顔知らないの。」
その告白に、ダグラスは口をはさむことなく静かに耳をかたむける。
「あたしが生まれる前にお父さんは戦争に行って死んで、お母さんもあたしが小さいうちに病気で死んじゃった。」
ティラが小さく笑う。
「ふふ。よくある話よね。ベタすぎて話すのも恥ずかしいからあんまり言わないの。
両親がいなくなってからは、兄さんがあたしを育ててくれた。兄さんは頭が良くて、力持ちで、優しくて。
村の人もみんな兄さんが大好きだった。」
ダグラスが眉をひそめて、静かに聞く。
「………だった?
じゃあ………」
「ううん!死んではないさ。
生きてるけど、兄さんは変わった。」