zinma Ⅲ
ダグラスがそれに目をたき火へと戻す。
「………レイ兄がいなくなってしばらくして……領主様がおかしくなった。
前にも言ったでしょ?
飢饉で払えない税金の変わりに、あたしたちは人を売らなくてはいけなかった。町の人を売るわけにいかないから、旅人を捕まえてた。
始めは領主様に旅人を売っても、あとで助け出せたんだけど……
領主様がおかしくなってからは、なぜか町の人が裏切るようになった。
領主様に心を抜かれたみたいに、操り人形になった。
もしかしたら、領主様がおかしくなったのって、レイ兄が言ってた恐ろしい力のせいなのかな?」
そこまで話して、ティラがまっすぐにダグラスを見つめた。
赤い瞳と、赤みがかった濃い茶色の短髪が、たき火の明かりを浴びてさらに赤く光る。
「ねぇ、ダグラス……。
ダグラスはほんとにレイ兄を信用してるんだね?」
突然の質問だが、ダグラスはしばらく黙ってから静かにうなずいた。
それにティラは大きな瞳を少しだけ揺らす。
しかしすぐに目をふせて、無理矢理作ったような弱い笑みを浮かべる。
「………そっか。
じゃあ、あたしも信用してみてもいいかな。」
静かにそう言って、ティラは一度目を閉じて空を仰ぐ。
まるで何かに耐えるように、きつく目を閉じて。
ダグラスはその横顔を見つめて、次の言葉を静かに待った。
しばらくして、ティラはうつむいて、心を落ち着けるかのように長い息を吐き、目を開く。
ダグラスの方をまっすぐに見つめ、小さく口を開いた。
「………あのね、ダグラス。
兄さん、変わったって言ったでしょ?」
少し揺れたような小さな声で、そ言うティラに、ダグラスは優しく静かにうなずく。
「ああ。お兄さんが、どうかしたのか?」
ティラは笑うように、泣きそうなように、目を細めて言った。
「…………あのね、兄さんも……
兄さんも、おかしくなったの。」