zinma Ⅲ
悪が産む悪
4人は静かにたき火を囲んでいた。
シギは拾ってきた薪を火にくべながら、静かに炎を見つめている。
レイシアはいつもの不思議な色合いの瞳を火にきらめかせながら、火を挟んで向かいに座る、縮こまったティラを静かに見ていた。
「………領主様がおかしくなっても、兄さんは町の人たちを励まし続けた。
兄さんには恋人がいたんだ。
その人と幸せになるために、最後までがんばるって言ってたのを覚えてる。」
ダグラスはティラの隣で、聞いているような聞いていないような、考え込んだ顔であぐらをかいて座っていた。
「ティラさんのお兄さん…というと、マイル・ルークさんでしたっけ?顔はよく覚えていませんが、よく世話のしてくれる方だったのは覚えています。」
それに小さくうなずいて、ティラは続ける。
「でも、その恋人が、ある日領主様のところへ行った。
申し入れに行ったんじゃない。
売られたの。
家族に売られて、領主様のところへ行ってしまった。もちろん帰ってこなかったよ。
それを聞いた日に、兄さんはおかしくなった。」
ティラは抱いた膝をまたさらにきつくたたんで、わずかに唇を噛んだ。
「恋人が消えたことに落ち込んでたかと思ったら、ある日突然狂ってしまった。
レイ兄があの日やっつけてくれた奴みたいに、ゾンビみたいになってた。」
それを聞いて、レイシアはわずかに目を細めた。
「……マイルさんは、何か変な力を持ってたりしましたか?」
ティラは思い出すように目を閉じて、そのままでゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…………あまり、よく覚えてない。
家に帰ったら、兄さんがあたしを待ってて、振り向いた兄さんの顔が怖かったから、逃げようとした。
そこまでは思い出せるのに、それからあたしがどうなったのか、思い出せない。
気がついたら家が目茶苦茶になってて、兄さんは町から消えてた。」
そこでティラは目を開いて、レイシアを真っすぐに見つめる。
「ねぇ、レイ兄。
あの日、レイ兄が倒した男の人が、レイ兄の言う不思議な力を手に入れてしまった人だとしたら、あの男の人と同じみたいになっちゃってた兄さんも、レイ兄は倒さなきゃいけないの?」