zinma Ⅲ
「カンショウ………?
それってどんな……」
小さくそう聞いたティラに、レイシアはうなずいて答える。
「人体に影響を及ぼせる『呪い』のことです。
『干渉』は長年、いくつもに分裂してしまっている『呪い』でもあります。
そのため、いくつもある『干渉』の中でも能力にばらつきがあるのですが、あなたのお兄さんの場合は人の脳から記憶を抜き出す能力があるようです。」
それにティラはわずかに目を見開いた。
「…え………?それっ…て………」
「はい。
あなたがお兄さんが消えた日のことを覚えていないのも、お兄さんがあなたの記憶を抜き取ったからです。
マイルさんは、あなたに力を使ったんですよ。」
ティラが突然ふらりと立ち上がる。
「……う、嘘よ。兄さんが……兄さんがあたしを傷つけようとするはずがない。
あんたがしゃべってることは…全部…全部でたらめだ!!」
怒っているような、泣きそうな顔でレイシアに怒鳴るティラを、ダグラスが眉をひそめて見上げる。
ティラに手を差し出して、静かに言う。
「……ティラ。わかったから、少し落ち着………」
「うるさい!!あんたたちみんな頭がおかしいんだ!信じられるもんか!!」
ティラはそのダグラスの手を払い、目をぎゅっと閉じて両手で強く頭を押さえる。
「いや………嫌よ…!!兄さんが人間じゃないなんて……嫌……嫌ぁ……っ!」
ダグラスはそんなティラを苦しげな顔でただ見つめていた。
「なんで…………なんで………」
消えてしまいそうな声でそう言ったかと思うと、ティラの膝が突然崩れる。
思わず焦ってダグラスがそのティラを抱き留めるが、ティラは気絶してしまったようだった。
乱れた髪の隙間にのぞく頬には、いつの間にかいくつもの涙の筋がついていた。
そのティラの頭をダグラスが静かになでると、すべてをただ静かに見つめていたレイシアが立ち上がる。
そのレイシアの顔を見上げ、ダグラスは思わず息を飲んだ。
その顔は
今まで見た中で一番
虚無に満ちていて。
「いつかは知らなければならなかった事実です。
彼女にはつらいでしょうが、これも人間という厄介なイキモノとして産まれてきた性。
耐えてもらわなければ。」
無表情な顔でティラを見下ろしそう言ったレイシアは、そのまま踵を返して森の奥へ消えていく。
数歩進んだところで一度足を止め、わずかに振り向く。
「……くれぐれも、代償のことは彼女に言わないように。」
ダグラスが首を傾げるが、終始黙って事の成り行きを見守っていたシギが小さくうなずく。
それがわかったのかわかっていないのか、レイシアはまた森へと足を進めた。
ティラの閉ざされた瞳から、また一滴の涙がこぼれた。