zinma Ⅲ
気絶したままのティラを自分の荷物を枕にして寝かせ、ダグラスは毛布をふわりとティラにかけてやった。
たき火へと目を戻すと、向こう側ではシギが小さくまるまって横向きに寝ている。
寝息をたてることなく目を閉じたその姿だけでは、起きているのか、寝ているのかわからなかった。
ダグラスはそのシギの様子を一瞥して、またティラへと視線を戻す。
わずかに頬に涙のあとを残し、静かに寝ていた。
レイシアは森に入っていったっきり、まだ帰ってきていない。
レイシアは、ティラは兄に何が起きたのか知るべきだったと言った。
それはダグラスも賛成だった。
いつまでも現実を見ないわけにはいかない。
さらにティラの場合は、兄が何かしらの代償を払っていて、レイシアと兄が出会ってしまえば『呪い』は失われ、代償として何かを失ってしまうことが確実なのだ。
もちろんまだティラの兄が契約者だという確信はない。
だがおそらく、契約者だ。
人以外の力を使えるものなど、本来ならばありえないのだから。
ダグラスはまたたき火を見つめた。
みなが寝入った今では、火は少し小さくなっている。
数本の薪を火に投げ入れ、棒でつついて調節しながらダグラスは静かに火の中を眺めた。
炭になった木が、音をたてて割れる。
ダグラスにとって、旅をはじめてから『呪い』に出くわすのは初めてのことだった。
レイシアやシギは、もうすでにいくつもの『呪い』と出会っているのだと言う。
ティラに出会って、実感した。
『呪い』には、想像以上の悲劇が付き纏う。
シギもレイシアも、今までにそんな悲劇を見つめてきたのだろうか。
あの静かな瞳で、堕ちていく哀れな人間を、ただ見送ったのだろうか。
『呪い』をこの世から取り去ったとして、そんな悲劇もこの世から消えるのだろうか。
ティラのように苦しむ子供たちが、増えないと言えるのだろうか。
そんな考えとともに、ダグラスはいつの間にか重くなったまぶたを閉じた。