zinma Ⅲ
「ん……………。」
ティラはわずかに身じろいで、ゆっくりと起き上がった。
ひどく、頭が痛い。
鐘のように大きく鳴る頭を片手で押さえながら、目だけでまわりを見回す。
たき火はすでに消えてしまったようで、辺りは暗闇で満ちていた。
まだほんのりと赤みをおびた炭だけが、わずかに煙りを上げながらくすぶっていて。
そこで自分の身体にかかっていた毛布が落ちる。
それを見つめて、すぐに毛布を握ると、ティラはまた辺りを見回した。
「ダグラス…………?」
ダグラスはそのたき火のそばに座ってうつむいていた。
小さく声をかけてみるが、反応がない。
静かに近寄って顔をのぞいてみると、座ったまま眠ってしまったようで、目を閉じて小さく寝息をたてていた。
「………………。」
ティラはその横顔をしばらく見つめ、自分がかぶっていた毛布を取りに行く。
安心する香のする毛布。
起きてすぐに、それがダグラスがかけてくれたものだということがわかった。
ティラはその毛布をそっとダグラスの肩にかけると、音をたてないようにして自分の荷物を取りに行く。
荷物はシギのすぐそばにあった。
シギは片腕を枕にして、横向きに眠っていた。
小さく縮こまってわずかに肩を上下させて眠る様子からして、熟睡しているようだ。
ティラはシギに気を配りながら、ポシェットを腰のベルトに通し、愛用している双剣を腰の後ろに装備する。
こてをはめ、荷物を確認し、静かにそこを去る。
「どこへ行くんですか?」
突然かかった声に、びくりと肩を震わせる。
ゆっくりと振り向くと、さっきまで寝ていたはずのシギがゆっくりと上体を起こしていて。
起き上がったシギが頭を上げ、金色の切れ長の瞳でティラをとらえる。
いつもの無表情からは、相変わらず考えが読めない。
「…………別に。あんたには関係ないじゃない。」
できるだけ表情を変えないようにしてティラは言う。
シギは立ち上がって、手だけで場所を変えるようにうながし、森の中へ入っていく。
一度逃げようかと考えるが、シギの背中に隙がないのを見てあきらめる。
それを見透かしていたかのようにシギはわずかに振り向いてティラが着いて来るのを確認すると、ゆっくりと森の中へ進んだ。