zinma Ⅲ
しばらく森を進んだところで、シギが足を止める。
それにわずかに身構え、身体を緊張させた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。」
シギがなにもかもわかったように言うので、ティラは少し眉をよせる。
「……それで?女の子を呼び出したからには、何か理由があるんでしょうね?」
挑発するようにそう言ってみるが、シギは動じることなく、相変わらずの無表情でまっすぐにティラを見つめる。
「私が用があるというわけではありません。
あなたが、出ていこうとした。」
それにティラがぴくりと眉を動かす。
「だから、あんたには関係ないでしょ?
あたしとあんたたちは元々赤の他人。
いっしょに旅をしたのだって、一時的なことってレイ兄だって言ってたでしょ。」
「だからといって、今あなたに行かせるわけにはいかない。
今のあなたは世界にとって大変危険です。
これからあなたはお兄さんに会いに行こうとしている。ちがいますか?」
「それが何よ。
あたしはただ一人の肉親に会いに行こうとしてるだけ。
それの何が危険なの?」
「あなたはわかっていない。
あなたのお兄さんは、今恐ろしい存在になっている可能性があるんです。
人を殺せば殺すほど、『呪い』は力を増す。
今あなたがお兄さんに殺されてしまえば、それだけ世界は危険になる。」
「そんなはずない。
兄さんは大切な人を失って、気に触れてしまっただけよ。
すぐにもとに戻る。
あんたたちが何を言ってるのかわかんないけど、あたしたち兄妹を変なことに巻き込まないで。」
それにシギがしばらく黙る。
怒るでもなく、呆れるでもなく、相変わらずの無表情でただただティラの言葉を噛み締めているようだった。
「………これから私たちもサムラへ向かうんです。
お兄さんに会うだけなら、いっしょに行っても遅くはないでしょう?」
それにティラは目を細め、嫌悪の表情を浮かべる。
「それじゃあ意味がないの…!
あんたたちと兄さんを会わせたら、兄さんは何をされるかわからない。
あんたたちがサムラに来る前に、兄さんをもとに戻さないと……」
「それが危険だと言っているんです!
あなたがお兄さんと会いたいと思うのはわかります。ただ、一人で行くのは危険だ。
私たちは、あなたのお兄さんの状態を確認するまでは手を出しませんから。
お兄さんが危険である確証もありませんが、危険でない確証もないんですよ!」
ティラが声を荒げるのに合わせて、シギも珍しく声を荒げる。
あくまでも淡々と、しかし顔をわずかにしかめて。