zinma Ⅲ
「あの大男は王都からずっと追われてきた有名な悪人です!
ミルドナまで逃げては来たものの、昨晩酒場で暴れたために逮捕されました!
このまま捕まっていたら王都の軍に追いつかれると思ったあいつは発狂し、いま暴れているんです!」
そこまで言ってシギは一度息をつき、街の者たちに冷静になる時間を与える。
そしてしばらくしてさっきよりも落ち着いた声音で続ける。
「あいつは王都からたくさんの爆弾を持ち出したために追われていました。
その爆弾をさっきからこの街に放ち続けたからこんなことになった。
でももう大丈夫だから。
落ち着いて森に行ってください。」
それに幾分か落ち着いたらしい街の者たちが、ぞろぞろと森へと入って行った。
それにシギは大きく息をつく。
あんな大嘘をついたのは初めてだった。
あれは全部嘘だ。
『呪い』の存在を一般の人間に知られるわけにはいかない。
コチラの世界に、人を巻き込んではいけないのだ。
すると人混みの中から一人が流れに逆らい、シギのほうへやってくる。
見ると、ミルディー亭のナムだった。
「よかった。無事でしたか。」
そうシギが言うと、乱れた息を整えながらナムはうなずく。
「ええ。それよりも、レイシアさんはどうしたんです?
まさか……」
と言うので、
「いえ、師匠は無事です。
王都の軍といっしょに戦闘に参加しているんで。」
と応える。
それにナムは安堵の息をついてから、真剣な目でシギを見つめる。
「でも、本当なんです?
いまいち信じられないんです。
不思議なことばかりが起きてる。
王都の軍や一人の悪人の仕業だとは思えないようなことばかり。
これは本当に人間がやっているんですか?」
それにシギは顔をしかめそうになるが、なんとかこらえる。
そして、
「…安心してください。
今日起きたことはすべて悪い夢だ。
人と人の争い事は、普通は考えられないようなことも産む。」
そしてシギは街を見る。