zinma Ⅲ
わずかな物音にダグラスは目を開いた。
「ん………なんだ………?」
顔を上げて辺りを見回そうとすると、肩に何かがあるのを感じる。
肩に触ってみると、それが毛布だとわかった。
それに一気に目が覚め、勢いよく振り向く。
そこには、さっきまでティラが寝ていた場所にティラはいなく、枕にさせていたダグラスの荷物も丁寧にまとめられていた。
「ティラ…………?」
立ち上がり前を見ると、寝ていたはずのシギも荷物だけ置いて消えている。
すると森の中から、2人だと思われる話し声が聞こえてきて。
嫌な予感がして、ダグラスは森へと走った。
「……あんたに何を言われたって、信用する気にはならない。
あたしは兄さんに会いに行く。それを変えるつもりはないの!」
そう言い放って、ティラは腰の後ろから双剣を抜く。
金属がこすれる音とともに、抜き放たれた剣が月光に青白く輝いた。
シギはそれに半身を一歩下げ、軽くかまえる。
「………ティラ。
私たちの秘密をあなたが知っている以上、力を加減する必要はない。
あなたがその気なら、私も本気を出しますよ。」
「脅したって無駄!!
あんたの本気がどんなもんか知らないけど、あたしは兄さんに会いに行く!
こっちだって半端な気持ちで一人旅してるんじゃないのよ。それなりに自信がある。」
そう言ってティラが体勢を低く低く下げ、右手を目の前に、左手を頭の上にかまえる。
双剣の扱いには自信があった。
長剣や斧よりは格段に攻撃力が落ちるが、素早さは双剣が一番。
力のないティラにでも、勝算がある武器だ。
旅に出てから、何度も獣相手に練習をした。
シギが言う『本気』というのが何を意味するのかは知らないが、ここで足止めをくらうわけにはいかなかった。
さらに………
「……………。」
ティラは構えたまま辺りを視線だけで確認する。
今のところなんの気配もないが、何よりも警戒しなくてはいけないのが、シギではなく気配だった。
レイシアに出てこられては、困る。
さすがのティラでも、レイシアに勝てる自信は0だった。
あの要塞での出来事。
さらに会ったばかりのときの、あの抜群のナイフ使い。
レイシアがこの騒ぎに気づく前に、目の前のシギを突破する必要があった。