zinma Ⅲ




いつにも増して真剣なダグラスの横顔に、レイシアとシギは一度顔を見合わせる。


そして同時に小さく笑い、レイシアは少しだけ困ったような微笑みを浮かべて言った。



「………しょうがないですね。
この『呪い』の吸収が終わったら、彼女も連れて行きましょう。」



ダグラスがそれにレイシアの方へ横目を向けるが、すぐに前を向く。



ティラのことは、確かに気に入っていた。


『お父さんみたい。』


そう言って笑ったティラの笑顔は、心からの笑顔に見えた。

それまでの無駄に明るい笑顔ではなくて、少しだけ過去の傷を見せた、はかない笑顔だった。




レイシアのはからいに、ダグラスは感謝しようと口を開きかけたところで。




レイシアが左手を上げ、2人を制す。

走りを緩めて、姿勢を低くしながら足を止める。



「…………いましたね。」


小さく囁いたレイシアの視線の先には、確かにティラがいた。



低い木がいくつも生えた林のような場所を、慣れた様子でひょいひょいと障害物を乗り越えながら進んでいる。


そこは小高い丘になっているようで、ティラは頂上に行くにつれて姿勢を低くし、その丘の下を警戒しているようだった。



「……………よし。」


ティラは小さくそう言うと、姿勢を低くしたまま丘を駆け降りて行った。




レイシアはティラが見えなくなるのを確認して、同じように姿勢を低くしたままで頂上へ近づく。


頂上には女神が待っていて、レイシアが近づいてくるのを静かに見つめていた。

しかし近くにシギがいるのを確認すると、突然顔を鬼のようにしかめたかと思うと、シギへと襲いかかろうとする。

レイシアはすぐに指を鳴らして魔術を解き、女神を消す。



「…………。」


シギはもう慣れたようにその光景を一瞥し、レイシアのあとを追う。


妙な2人の行動に顔を傾げたダグラスに、シギが声をひそめて説明する。



「師匠はあまりにも膨大な魔力を生み出せますから、魔力の結晶として女神を召喚することができるんです。

しかし私は魔力を使いながらも、『呪い』を宿した身。

『呪い』とは正反対の力である魔力の結晶の女神は、私のことが死ぬほど嫌いなんですよ。」



ちょっと傷ついたようにため息をつくシギに、やっとダグラスが顔をゆるめたところで、3人は丘の上にたどり着いた。








< 315 / 364 >

この作品をシェア

pagetop