zinma Ⅲ
丘のふもとには小さな街があった。
しかし。
「……………なんてことだ。」
ダグラスは思わずそううめいた。
街はひどい有様だった。
畑は完璧に枯れ、大地も水分を失いひび割れている。
決して少ないとはいえない家たちのほとんどは一部分が崩れたり焼け落ちたりしていて。
しかし街の中心にある建物だけは新築のように輝いていた。
よくある話だった。
飢饉で廃れた街を、領主が悪政をしいて統治している。
「懐かしいですね〜。」
レイシアの囁きに、シギとダグラスがレイシアへ目を向ける。
「ああ、そうか。
お前の故郷もここだったな。」
ダグラスがそう言うと、レイシアは小さく笑う。
「はは。まあ、こんな状態の街を故郷ですなんて自慢はできませんが。
私がいたころは飢饉がくる前でしたから、もう少しきれいでしたよ。」
シギがそれを聞きながら丘の下をのぞくと、ティラが警戒しながら街へと向かっていくのが見えた。
「………ティラの兄も心配ですが、師匠の家族が無事なのかも気になりますね。」
シギがぽつりとそうつぶやくと、レイシアは静かな目で街を見つめながら言う。
「そうですか?
私は気になりませんね。」
ダグラスとシギが思わずそれにレイシアの横顔を見つめるが、レイシアは街を見下ろしたまま続けた。
「私はもう4歳のころから両親に会っていませんし、彼らが私のことを覚えているとも思えない。
万が一覚えていたとしても、良い印象ではないと思いますよ。
彼らの中で私は、ただの化け物ですから。」
その瞳には、虚無以外の何も浮かんでいなかった。
悲しみとか、憎しみとか、両親への愛だとか、そういったものはお世辞にも思っているようには見えない。
「そろそろ行きますか。」
レイシアがそう囁いて、一気に丘を駆け降りていく背中を見つめ、シギは悲しげに目をふせた。