zinma Ⅲ
「そこにいるのはだれだ!!」
衛兵は路地を覗きこむ。
しかし、
「………………。」
そこにはだれもいなかった。
確かにさっきまで人の気配がしていたが、衛兵は表情を変えることなく静かに路地を見回し、またもとの道へと戻っていった。
衛兵の足音が聞こえなくなったところで。
「……………ぷはっ!」
その路地の地面からシギが勢いよく顔を出した。
さらに、
「げほっ!」
ダグラスが咳こみながら同じく顔を出す。
そして最後に、
「危なかったですねぇ。」
2人とは打って変わってにこにこと微笑みながらレイシアが顔を出した。
まるで水のように3人に合わせて波打つ地面にレイシアは手をついて、また水から出るように上半身を持ち上げる。
何事もなかったかのように悠然と地面に立つレイシアを追って、あとの2人も地面からはい出た。
「ぺっ。レイシア!これはいったいどうなってるんだ!」
口に入った砂を吐き出しながら、ダグラスはそう声を上げた。
服についた砂をぱたぱたとはらっていたレイシアはそのダグラスに微笑んで、
「魔術ですよ。
大地に干渉して、私たちを隠れさせてもらいました。」
と当たり前のように答えた。
それにダグラスと同じように口の中を気にしていたシギが顔をあげ、手の甲で口をぬぐいながら感心したように言う。
「あんなふうに大地の質感を変えてしまうこともできるんですね。」
レイシアはうなずいて、路地から顔だけ出して衛兵の消えたほうをのぞきながら言う。
「普通の魔法陣では不可能ですが、女神を召喚すればできるんですよ。」
その背中を見てから、ダグラスも同じように路地から顔を出す。
「レイシアはさっきあの兵士の何が気になったんだ?」
シギもそれに興味をしめしたように2人の背中を見つめる。
それにレイシアはまだ路地から顔を出したままで答えた。
「ああ。あの衛兵から『呪い』の気配が濃く感じられました。
明らかに彼は呪われてる。
しかし、契約者ではない。」
「呪われてるのに契約者ではないだと?どういうことだ。」
眉をひょいと上げて聞くダグラスに、レイシアは振り向いて路地へと戻る。
そして指をぱちんと鳴らして空気の振動を止め、3人の会話が他に聞こえないようにしてから路地にしゃがみ込んだ。
ダグラスとシギもレイシアの近くにしゃがみ込む。