zinma Ⅲ
3人はわずかに早足になりながら街を歩いた。
レイシアはかすかに、ティラの家を覚えていた。
13年前。
最後にこの街を見たときの記憶を必死で手繰り寄せながら、レイシアは街を見つめる。
すべてが見覚えのある町並みだった。
通り過ぎていく家のすべてを視界にとらえながら、過去の記憶を蘇らせる。
あの家に住んでいたおじいさん。
あの家に住んでいた新婚の夫婦。
まるで何十年も昔のことのように感じた。
この街が、嘘みたいに廃れてしまっているせいもあるのかもしれない。
ただ、唯一人間として生きていたあの4年間が、今となっては信じられなかった。
もう、完璧に化け物に成り下がった自分が。
もう、あの頃とは別人のようになった自分が。
この故郷を歩いているというのが、妙な感じだった。
「…………あの家ですね。」
レイシアは静かな瞳で街を見つめながら、道の先にある小さな家に目をうつした。
赤い屋根の、質素な家。
あれが、ティラが昔住んでいた家のはずだった。
「あそこにティラが?」
わずかに強張ったようなダグラスの声に、レイシアはうなずく。
確かにあの家からは、一人の気配が感じられた。
「…急ぎますよ。」
静かにつぶやいて、足を速めたレイシアにシギとダグラスが後ろにつく。
あと数歩。
あと数歩でティラの家に………
「……あんたら……旅人かい……?」
突然かかった弱々しい声に、3人が思わず足を止める。
振り向くと、今さっき通り過ぎた路地から一人の女が現れていた。
ボロボロの服を来て、髪を乱し、こけた頬骨。
落ち窪んだ弱々しい瞳を大きく見開き、まっすぐにこちらを見つめている。
汚れた髪は、わずかに金髪であることを伺わせていた。
「旅人なのかい……っ?!」
身体をわなわなと震わせながらこちらに手を伸ばす女に気圧されて、シギとダグラスが一歩下がる。
しかしレイシアだけは、女をまっすぐに見つめたまままったく動かない。
「……………師匠…?」
シギが声をかけてみても、前髪のかかったレイシアの横顔からは表情が見えなかった。
ただ、微動だにすることなく女を見つめていて。
それにダグラスとシギが怪訝な顔をするが、女がおかまいなしによろよろとこちらへ歩いてくる。