zinma Ⅲ
「………………。」
石が女に当たることはなかった。
思わず目を閉じていた女が顔を上げると、レイシアがいつの間にか手を上げてその石を受け止めていて。
街の人間も、女も驚いたような、疑うような目でレイシアを見つめる。
レイシアはゆっくりと手を降ろし、握りしめた石を捨てる。
「………だから、私は旅人ではない。この街の人間ですよ。」
静かにそう言うレイシアの顔を、女が怪訝な顔でのぞき込む。
「はは。まあ、長らく留守にはしていましたが。」
小さく笑いながらそう言うレイシアを見て、女の顔が恐怖と驚愕に支配されたのが、シギには見えた。
「うそ……………うそよ……!だ、だって…………そんな…………」
さっきよりも大きく、尋常じゃないほど震えながら、女がそんな言葉をもらす。
そして勢いよくあとずさり、その勢いで尻餅をつきながらもさらにあとずさる。
その女のおかしな行動に、住人も怪訝な顔をするが、目の前の餌をのがさないようにまた3人へ近寄りはじめる。
しかし。
「ぃや………いやぁ…っ!そんなはず………いやああ!!!」
頭を両手で押さえながら、叫び声を上げる女に思わず住人も足を止める。
その様子を混乱したように見つめながら、ダグラスとシギはレイシアへ近寄る。
「し、師匠…………。
あの夫人、名前が…………」
そこまで言ったシギを片手で制し、レイシアはゆっくりと女へと近寄る。
「いや……いやあっ!!!来ないで…!!!いやよぉっ!!!」
涙をぼろぼろと流して抵抗する女に、住人もレイシアからどんどんあとずさる。
「レイシア……?」
ダグラスが小さく声をかけるが、おかまいなしにレイシアは尻餅をついたままの女の目の前へ近寄り、しゃがみこむ。
「…ぁ……あ……ああ……!」
恐怖に歪んだ顔でレイシアを見つめながら、女ががたがたと振るえる。
その女を見上げるようにして見つめて、レイシアはゆっくりと微笑んだ。
「お久しぶりです。
母さん。」