zinma Ⅲ
たくさんの足音が聞こえたような気がして、ティラは顔を上げた。
窓の外を見つめるが、視界が歪んでいてよく見えない。
涙の溜まった瞳をこすりながら、ティラは家のドアノブへと手をかけた。
しかし。
カチャ………
ティラがドアノブに手をかける直前、ドアノブが先に動く。
びくりと肩を震わせて一歩後ずさり、ティラはゆっくりと開かれる扉をにらみつけた。
キィ………
扉の軋む音につづいて現れた姿に、ティラは目を見開いた。
「…に………兄さ……ん?」
「いやああああああ!!!」
母親の泣き叫ぶ声を聞きながら、レイシアは顔から微笑みを消した。
一目見てわかった。
13年ぶりに見た、自分の母親の顔。
ずいぶんとやつれ、歳もとっているようだったが、他は何もまったく変わっていなかった。
今は汚れた金髪も、少し薄めの碧眼も。
長らく見ていなかったというのに、この顔を見た瞬間にすぐに思い出した。
目の前で、レイシアをにらみつけて泣き叫ぶ母親を見て、レイシアは目を細めた。
昔からこんなに狂ってはいなかった。
頭に浮かぶ母親の顔は、いつも優しげに微笑んでいたのに。
だが一番新しい記憶。
あの、13年前のあの日の母親は、嫌悪の表情を浮かべていて。
「………レイシア。本当にこの女性が……」
「ええ。私の母親ですよ。」
躊躇したように背後からかけられた声に、レイシアはなんの感情の抑揚もない声で返す。
しかしそこで。
「…………ま、まさか……。リール夫人の子供ってことは………」
「れ、レイシアかあ……っ!!!」
「帰ってきたのか?!!!」
周りで静まり返っていた住人たちが一気に騒ぎはじめる。
レイシアはそれをにこにこと微笑んで受け止めるが、ダグラスとシギは険しい顔で住人たちをにらみつけた。
住人たちの反応は決して良いものではなかった。
まるでレイシアを、邪魔者とか犯罪者などのような目で見ているようで、明らかな嫌悪がその顔に浮かんでいた。
「どういうことだ………。
同郷の子供が帰ってきたというのに……」
悔しげに唇を噛み締めるシギに、ダグラスも同じように顔をしかめる。
レイシアはその2人を振り返って微笑むと、
「まあ、こういうことになるのは予想していましたよ。
私はこの街の人たちにとって……」
と、そこまで言ったところで。