zinma Ⅲ
ひゅっ。
風を切る音が聞こえたかと思うと、レイシアの顔を目掛けて飛んできた石をレイシアは軽く受け止める。
すっと静かな瞳を石の飛んできた方向へ向けると……
「くそぉ!!早く出ていけ!!!」
「そうだ!!出ていけ!!!」
「貴様みたいな悪魔のせいでこの街は呪われてる!!!」
そんな声とともに、大量の石がレイシアへ向かって投げられる。
「師匠っ!!」
ダグラスとシギがレイシアの背後と横に立ち、自分たちのコートや荷物でその石を防ぎ、レイシアはレイシアでなんの弊害もないかのようにひょいひょいと石を受け止めていく。
すると目の前の母親がやっと立ち上がり、大きめの石を思いっきりレイシアへと投げつける。
レイシアは静かな目でその石を見つめるが、避けようとはしなかった。
にぶい音をたてて、レイシアの額に思いっきり石がぶつかる。
「レイシア?!」
「師匠!!」
2人が同時にそんな声を上げるが、レイシアは額から流れる血を感じながら、ゆっくりと母親を見た。
嫌悪した表情でこちらをにらみつける母親は、ナイフを握りしめて立っていて。
レイシアの澄んだ瞳を真っすぐににらみ、涙と恐怖でぼろぼろになった顔を憎々し気にゆがめてうめいた。
「悪魔め………!!」
昔からわかっていたことだった。
13年前。
わけもわからず『選ばれしヒト』の力を解放してしまったあの日から。
自分の世界は変わった。
平和なんてものは、一切見当たらなかった。
昨日まで微笑んでいた母には罵られ。
昨日まで触れてくれた父は自分を軍に売り。
昨日まで親切にしてくれた街の人たちに、追い出された。
昨日までこの手にあった幸せは、まるで嘘のようにあとかたもなく消えていた。
始めは悪夢だと思っていたのだ。
ただの悪い夢だと。
いつか目が覚めれば、またあの幸せに戻れると。
怖い夢に涙を流しながら、優しい母の胸でなぐさめてもらえると。
だが実際は。
実際は、幸せな日々のほうが、馬鹿な夢だったのだ。
自分は今、現実を生きている。
化け物としての運命を。
実の母親に、傷付けられる人生を。