zinma Ⅲ
レイシアのプラチナ色の美しい髪が、かすかに赤に染められていく。
「くっ…。し、師匠!!血が……大丈夫ですか?!」
石を受けながら、シギが前を向いたままそう声をかける。
レイシアはその言葉にやっと自分の額を押さえた。
左の額をかなり切ってしまったようで、左手に真っ赤な血が大量につく。
その左手を見ながら、自分の血は赤いのか、なんてことを考える。
見上げると、母親は一度身体をびくつかせるが、すぐさまナイフを握り直して、今にでも襲い掛かってきそうな体勢をとる。
「お前が………お前が産まれたせいで……お前が悪魔だったせいで………私はあと少しで魔女にされるところだった……!!!お前の父さんは……もうとっくの昔に自殺した………お前が原因で………。
お前のせいで!!!あたしの人生目茶苦茶だ!!!!!」
涙を流しながらそう叫ぶ母親に、レイシアはなんの感情も抱かなかった。
ただ、父さんは死んだのか、と。
母さんは、自分を恨んでいるんだな、と。
ただ、それだけ。
額から血をぽたぽたとたらしながら、レイシアはゆっくりと立ち上がった。
それに街の住人も、母親も、一歩後ずさって警戒しはじめる。
その様子がなぜか滑稽に見えて、レイシアは小さく笑った。
「……おい、レイシア。大丈夫か?」
ダグラスが心配そうにそう聞いてくるが、レイシアはにっこりと微笑む。
「心配も何も、こうなることは予想していたと言ったでしょう?
その覚悟のうえで、ここへ来たのですから。」
「しかし師匠。せめてその傷を……」
シギの言葉に、レイシアはもう一度額に触れる。
予想以上に切ってしまっていたようで、かなりの血が流れていた。
前髪の半分がぐっしょりと血で濡れていて、気持ちが悪い。
このまま血を流し続ければ、気絶くらいはしてしまうかもしれない。
レイシアは濡れた前髪をかき上げながら、辺りを見回した。
こちらを警戒して武器を構えた住人たちが、レイシアの様子をうかがうように黙り込んでこちらをにらみつけている。
母親も母親で、レイシアへとナイフを向けたまま、まだ涙を流していた。
「………ああ。面倒なことになりましたね。
まあしかし、今は袋だたきに合う前に一刻も早くティラさんを保護しなくては。」
そう言って住人を追い払う程度の魔術を使おうと右手を掲げたところで。
「兄さん!!!!!!!」
甲高いその声に、3人は弾けるよなうにある家のほうを振り返った。