zinma Ⅲ
「……に……兄さ……ん……?」
ティラは思わずそうつぶやいた。
ゆっくりと開いた扉の向こうには、懐かしい人影が立っていたのだ。
開かれたドアノブに手をかけたまま、驚いたように呆然とティラを見つめる男が。
ティラと同じ赤みがかった茶髪。
だが釣り目のティラとは対照的な、優しげな垂れ目の深紅の瞳。
この世でたった一人の肉親の姿が。
「てぃ………ティラ…?
お前………戻っていたのか……。」
昔と変わらぬ優しげな声に、ティラは一瞬で涙があふれそうになる。
震える声でそう言う兄は、泣きそうに顔をゆがめてティラを見つめていた。
「ティラ………ティラ………お前、よく無事で…………」
あの想像と同じだった。
兄は変わってなんかいなかったのだ。
相変わらず優しさにあふれたその瞳で、ティラを見つめてくれるのだ。
レイシアたちの予想は外れた。
兄は、兄だった。
「……っ。兄さん………っ!!」
あふれる涙をそのままに、ティラは兄の胸へと飛び込んだ。
兄もそのティラをしっかりと抱き留め、力強く抱きしめながら、ティラの頭を優しくなでた。
「ティラ………ティラ………。
僕の、妹……。
本当に、生きていたんだね。」
震える声で、兄が泣いているのがわかる。
ティラも涙でぐしゃぐしゃの顔を兄の片口に埋めて、嗚咽でまともにしゃべれない自分をよそに、何度も何度もうなずいた。
「本当によかった………。
ティラ……。おかえり。」
ずっと聞きたかったその言葉を聞いて、ティラはもう、何もいらないと思った。
少しでも兄を疑った自分が馬鹿だった。
『呪い』なんて邪悪なものに、兄が関わるはずがないのだから。
しかしそこで。
「…………!……!!!」
外からたくさんの人の騒ぎ声が聞こえはじめて、ティラは思わず顔を上げた。
「なに………?兄さん……。街の人たちが…………」
そうつぶやくティラを兄、マイルは自分の胸から離し、ティラの瞳をのぞきこむ。
「いいかい、ティラ。
この街はもうおかしくなってる。
ここは危険なんだ。
早くこの街から…………」
そう言いかけたマイルの言葉を遮るように、外の騒ぎがいっそう大きくなる。
さらにその騒ぎの中からかすかに、
「………!!………レイシア!!!」
そんな声が聞こえた気がして、ティラは思わず窓のほうを見つめた。
「ダグラ……ス…?」
思わず動きだそうとするティラを、マイルが強く引き止める。