zinma Ⅲ
ある廃墟に、4人はいた。
もう日も暮れ、真っ暗になった街並が、崩れ落ちた壁のいたるところから覗ける。
住人に見つからないよう、火をつけることなく、真っ暗な闇の中で4人は静かに時を過ごしていた。
「………レイシア。傷はどうだ?」
低い男の声。
ダグラスが、レイシアへと聞く。
「どうも何も、あの傷です。
師匠は安静にしていたほうがいい。」
静かで平坦な声を闇にシギが響かせる。
しかしそこで、ある場所に火が点る。
突然の光りに慣れない目が悲鳴を上げ、目を細めてダグラスとシギはそちらを見た。
すると、上に向けた手の平の上に火をともしたレイシアが立っていて。
「おい、レイシア!
街のやつらに気がつかれるぞ。」
ダグラスがあわててそう言うと、レイシアは火を持っていないほうの手の人差し指を口に当てて、静かに、と口を動かすと、そのままその指をひょいひょいと動かす。
すると、廃墟の壁に空いた無数の穴が、土が盛り上がったかと思えばどんどんと埋められていく。
最後にはすべての穴がふさがれ、さらに窓にも草が生い茂り光が漏れないようになる。
「これなら問題ありません。」
微笑んでそう言ったレイシアは、誇りや崩れた家具が散乱とした床を歩き、中心あたりに火を置く。
ダグラスとシギが立ち上がってそこへ向かおうとするが、ダグラスは一度足を止めて振り返る。
「…………ティラ。お前も来い。」
ティラは部屋のすみで膝を抱いて縮こまっていた。
頭を膝にうずめ、微動だにしない。
その様子を見て一度ため息をつくと、ダグラスはティラを置いて火へと近づいた。
たき火の光りを浴びて照らされたレイシアの額からはもう血は流れていなかったが、プラチナの髪には血のあとがしっかりと残っていた。
「……………。」
ダグラスはレイシアへと近寄ると、何も言うことなく大きな手でレイシアの前髪をかきあげる。
「わっ。ダグラスは豪快ですねぇ。」
そう言って笑うレイシアに、ダグラスは思いっきり顔をしかめた。
レイシアの傷口はひどいことになっていた。
大きく裂けた傷口は数回縫ってあって、さらにその傷口は赤黒く固まっていて。
「………お前。傷口を焼いたのか?」
低くうめくようにダグラスがそう言うと、レイシアはダグラスの手を外そうとすることなく、にこにこと微笑む。
「ええ、まあ。
そうでもしないと、今手元にある道具では血を止められなかったので。」
レイシアの処置は、軍人の対応としては満点だった。
肉を切らせて骨を絶つ。
ひどい火傷を負ってでも、失血死だけは免れなければならない。
しかし。