zinma Ⅲ
「………自分でやったのか…!」
「はは。今の状況で医者のもとに行くと思いますか?」
レイシアは自分で額を縫ったうえに、自分で皮膚を焼いたのだ。
ダグラスも数々の戦場に行き負傷したから、皮膚を焼いてでの治療もしたことがある。
だからわかるのだ。
あれは生半可な痛みではない。
自分でやるなんていうのは、痛みで気絶するほどのはずだ。
「………痛みはないのか?」
「多少はありますけど、大したことではありません。」
それなのにまだにこにことしているレイシアに、ダグラスは怒ったようにさらに顔をしかめる。
その顔を見てレイシアはやっとダグラスの手をどけ、火を見つめる。
「私にとって、身体の傷の痛みなんて大したことじゃない。
もっと苦しいものに、私はつねに侵されてる。
身体の内側から何か大きなものが身体を食い破ろうとしているかのような気色の悪い激痛が、毎日私を襲っているんです。
それに比べたらこんな傷、アリに噛まれた程度ですよ。」
そう淡々と述べるレイシアに、ダグラスはまだ何か言いたげな顔をするが、大人しくレイシアの横に座った。
「さて。
マイルさんのことはどうしましょうかね〜。」
のんきにそうつぶやくレイシアに、対してシギは真剣な声音で言う。
「この街にいるということは、彼にも何か目当てがあるんだと思います。
契約者ならば、やはりそれは人を襲うことにあると思うのですが……」
そのシギにレイシアは指をパチンと鳴らして微笑む。
「当たりです。
きっと彼は『呪い』の力を得た本来の目的を果たそうとしている。
まさにそのとおりですよ。」
それにシギは照れているのかそうでないのか、少しうつむく。
ダグラスは小さくうめき声を上げると、
「ん。それならば、やはり領主に復讐を果たそうとしているとしか思えないだろう。
だがしかし、領主も領主で契約者の可能性がある。
そうなると『呪い』と『呪い』の戦闘に発展しまう可能性があるな。」
と言う。
するとそれに弾かれたようにシギが顔を上げる。
「もしそうなってしまったら、どちらかの『呪い』がもう一方を吸収してしまうかもしれません。
『呪い』が『呪い』を吸収すれば、力を増してしまいます。
ミルドナのときのように暴走してしまうのは危険では?」
そこまでを静かに聞いていたレイシアがうれしそうに微笑んで手をぱちぱちと叩く。
「すばらしい!
まったくそのとおりです。
あなたたちもやっとこの世界に馴染んできたということでしょうか。」