zinma Ⅲ
レイシアは穏やかな微笑みで、しかしどこか真剣さのかいま見える表情に変えて口を開いた。
「私は『呪い』を使って『選ばれしヒト』の気配を消していますから平気ですが、マイルさんは『呪い』の気配を解放していました。
彼はかなり『呪い』と上手く馴染んだようですから、多少は気配を消すこともできるはずなのに、そうしていなかった。
まるでほかの『呪い』に、その居場所を伝えようとしているかのように。
おそらく領主もマイルさんの存在気づいたでしょう。
マイルさんは領主をおびき出そうとしている。
そうでしょうね。
領主のまわりには、彼に洗脳されたこの街の人たちがたくさんいるはず。
その中に突っ込んでいくのは、たとえ上手なマイルさんでも得策とは言えない。」
そこまで聞いてシギが今にも立ち上がりそうになりながら言う。
「では、領主が動きはじめる前にマイルさんを見つけないと……」
しかしレイシアはそれを片手で制する。
「ここで考えられる私たちの行動は3つです。
1つ。マイルさんを一刻も早く捕まえる。しかしこれはかなりのリスクを伴います。万が一マイルさんを逃した場合、最悪の事態に陥る。
2つ。先に領主を捕まえる。こちらは領主が動きまわる可能性もありませんし、街の人を蹴散らせば簡単に終わるでしょう。」
「じゃあ、3つ目は?」
眉をひょいと上げてダグラスが聞く。
レイシアはにっこりと微笑む。
「もちろん、彼らの戦いをしばし静観することです。
ちなみに私のオススメはこれですが。」
その言葉にダグラスとシギが一瞬固まり、そしてすぐさま何かを言おうと口を開いたところで、
「どういうことよ!!!!」
3人が声のしたほうへ視線を向けると、いつの間にか立ち上がったティラがこちらをにらんでいた。
レイシアがすぐさま指を鳴らして空気の振動が外へ伝わらない魔術を発動する。
「静観って何?!!!
兄さんが戦ってるところを黙って見てろっていうの?!!!」
ティラはそう唾を飛ばしながら3人のもとへ歩いてくる。
「領主様だって契約者なんでしょ?!!
もし兄さんが負けたらどうすんの!!!
死んじゃったらどうすんのよ!!!!」
レイシアの目の前までやってきたティラはボロボロに涙を流していた。