zinma Ⅲ
「兄さんは………兄さんは確かに契約者だった……!疑ったのは謝るから………兄さんを助けてよぉ………っ!」
ティラが嗚咽混じりにそう言ってへたりこむ。
両手で顔を覆って声を上げて泣きはじめるティラを、ダグラスは唇を噛んで見つめた。
シギはそこまでを見て、振り返って様子を見つめていた顔をまたたき火へと戻し、無表情で火を見つめる。
「ティラ…………。」
ダグラスは優しく声をかけ、ティラの肩をなでる。
しかしレイシアはまったく変わらない声音で静かに語る。
「あなたはまだわかっていないようですね。
私がいる世界は、あなたの思うような偽善だらけの世界とはちがう。
目の前の命をいちいち救っていてはいけないんです。
私が救わなければいけないのはひとつの命ではない。
数えきれない命の詰まった世界なんです。」
淡々とそう言うレイシアに、ティラが嫌悪の表情を浮かべて顔を上げる。
さらにダグラスも少し目を細め、
「……おい、レイシア。その言い方は…………」
とうめくが、レイシアはかまわず続ける。
「いつまでこの無駄な問答を続ければ気が済むんですか。
あの森でも、同じようにあなたたちを相手にした気がするのは私だけですか?
あなたたちのその正義は正義ではない。
ただの自己中心的な偽善なんですよ。
あなたたちのその我が儘が、世界を滅亡に一歩近づかせるも同じ。」
レイシアはひどく冷たい瞳でダグラスとティラを見下ろしていた。
ティラは絶望、ダグラスは一種の恐怖の顔を浮かべて、レイシアを見上げた。
「それでもなんとしてもお兄さんを救いたいというのなら、教えましょう。
残酷な運命を教えましょう。」
レイシアは最期の審判を降す神のようだった。
無力な人間の前にたたずむ、絶対的な存在。
冷酷に、正確に、己の運命を歩む。
ティラの人生に、剣を振り下ろした。
「彼はもう手遅れなんですよ。」