zinma Ⅲ
ティラの涙が一瞬止まる。
「え…………て、手遅れ……って…?」
ダグラスは意味がわかったかのように悔しげにうつむく。
「なに……?ねぇ、ダグラス……どういうことなの…?手遅れって……どういうこと………?」
ひどく焦ったような、それでいて少し予想がついているような顔でティラがダグラスの肩を揺らす。
「ねぇ…ねぇ、ダグラス……兄さんは………」
「もう命を失っているんですよ。」
その声にティラが揺れた瞳をレイシアへ向ける。
レイシアはティラをなんの感情もこもっていない瞳で見つめていた。
「彼はもうすべてを『呪い』に差し出してしまっていました。
いま彼から『呪い』を吸収しても、何も残らない。
一度『呪い』に支払ってしまった代償は、もう二度と取り返すことができないんです。
もうどう足掻いても、あなたのお兄さんは帰ってはこないんですよ。」
一言一言を紡ぐように言うレイシアの言葉が、一言一言ティラの胸に突き刺さった。
こんなときにばっかり、昔の思い出が蘇る。
思い出が胸の奥から沸き上がってくると、いっぱいになって溢れた感情が涙として瞳から流れた。
「そんな………そんなの嘘だ……嘘だ!!兄さんは…兄さんは…!」
「もうやめろティラ!!!!!」
また涙を流して叫び始めたティラを、ダグラスの一喝が遮る。
ダグラスはゆっくりと顔を上げ、ティラも震えながらぼろぼろの顔をダグラスへ向ける。
「ティラ……この話は一度落ち着いてから続けよう。」
静かにそう言うダグラスに、ティラが絶望したようにダグラスの肩に置いた手を落とす。
「なんで………?じゃあ…じゃあダグラスも兄さんのこと……」
「ティラ。」
震えるティラの言葉をダグラスが静かに制した。
それに、ダグラスの肩に置かれたティラの手が力無くずり落ちる。
「そんな…………そんなぁ……っ……やだよ………や……」
レイシアがティラの首筋に手刀を叩き込む。
一気に意識を沈めて崩れ落ちるティラをダグラスが抱き留める。
あの森でのときと同じだ。
ティラを何度も、傷つけてしまった。
ダグラスがティラの横顔を見つめながら唇を噛むと、その横に立っていたレイシアがため息をつく。