zinma Ⅲ
レイシアはそこで小さくため息をついてから続けた。
「あなたにこの旅に着いてきてもらう前に言ったでしょう?
契約者たちの残酷な運命を見ても、旅を続けられるかどうかはあなた次第です。」
それにダグラスがうつむくのを一瞥し、レイシアは静かに廃墟の扉へと近寄る。
「私たちの旅はまだまだこれからなんです。
西の果てまで行かなければならないうえに、『秘密の森』も、『剛手の砂漠』も待ち構えている。
そこには今回以上の『呪い』が待ち構えているでしょう。」
プラチナ色の髪をなびかせて、レイシアが振り向く。
「今のあなたに、乗り切れるとは思えない。」
深いレイシアの瞳と、揺れるダグラスの瞳が交差する。
また前を向いて、
「考えなさい。」
肩越しにそう言うと、レイシアはゆっくりと廃墟を出て行った。
薪の弾ける音だけが響く。
レイシアの残した魔術の炎に薪をくべながら、シギは静かに意識を静めていた。
そこで金色の瞳を流し、目だけで横を見た。
ダグラスはうつむいたまま、眠り込むティラの頭を撫でていた。
レイシアが廃墟を出て行ったっきり、ダグラスはずっと黙り込んだままだ。
レイシアはダグラスに、もう着いて来ないほうがいいと言った。
シギも薄々、そう感じてはいた。
正直、ダグラスの人間らしさに癒されていた自分がいたのも事実だ。
悲劇だらけの世界に生きる自分にとって、久しく人間の温かみを感じさせてくれるのがダグラスだった。
だが今回、それが裏目に出ている。
シギはここしばらくのレイシアとの旅で学んだ。
契約者に、感情移入してはいけない。
中にはただ欲望のために力を手に入れる契約者もいるが、そうでない者もいる。
酷すぎる運命の中で生まれた憎しみや悲しみ。
それに耐えることができずに、そのどこにもぶつけることのできない感情、どこかで発散しないと身体が壊れてしまいそうなほどの感情を、最終的に『呪い』に明け渡してしまうのだ。
なりたくて、契約者になったわけじゃあない。
そんな彼らの悲劇は、こっちまで心が折れてしまいそうなものばかりだ。
しかし、その『呪い』を回収しなければ、世界は終わる。
『呪い』が月日を経て、どんどん力をつけている今、『呪い』と違って成長のない『選ばれしヒト』が『呪い』に対抗できるのは、今のレイシアの代が最後のチャンスかもしれない。
ここで、足を止めるわけにはいかない。