zinma Ⅲ
「ダグラス。
『呪い』をこの世界から無くしたからといって、世界が変わるかどうかは師匠にもわからないんだと思います。
契約者は、皆が皆、好きで『呪い』と契約するわけではない。
この世界にあふれた絶望に耐え切れなくなった者が、『呪い』に助けを求めるんです。
自分の心が、壊れないように。」
広い廃墟の中に、シギの声がこだまする。
「だから、もしかしたら『選ばれしヒト』が『呪い』を回収するのは、ある意味残酷なことかもしれない。
耐え切れなくなった人間の、最後の頼みの綱を奪い去るようなものだから。
『選ばれしヒト』の行為によって、壊れてしまう人間もたくさんいるでしょう。」
シギの言葉がひとつひとつ、ダグラスの心に深く突き刺さっていく。
その痛みに耐えるかのように、ダグラスは顔を苦しげにしかめた。
「だが師匠はその審判をつづけなければならない。
世界を、あるべき姿に戻すために。
あってはいけない存在を、消し去るために。
そのためには、冷酷さが必要です。」
さっきのレイシアの顔が頭に浮かぶ。
美し過ぎる姿。
人以外の、存在。
「世界は結局は天秤なんです。
大を救うためには、小を切り捨てなければならない。
世界を救うためには、契約者を切り捨てなければならない。
その道は、残酷以外のなんでもないんでしょうが………」
そこでまたうつむくシギを見つめて、ダグラスは強く拳を握りしめる。
「俺は………俺はすべてを救いたい。
大を救うのなら、小も救いたい。」
そのダグラスのうめきに、シギはまた顔を上げるが、また悲しげにうつむく。
「そうですか………。
やはりあなたは……
この旅には、向いていないのかもしれませんね…。」
そう言って黙り込むシギに、ダグラスは唇を噛む。
「俺だって…………人を救いたいんだ。」
そのうめきが聞こえたのかそうでないのか、シギは一言、
「寝ましょう。」
と言うと、魔術で生み出した水でたき火を消した。