zinma Ⅲ
明かりが、消える。
それを見つめて、マイルはなぜかとても悲しい気持ちになった。
「…………ティラ。」
愛する妹の名を口に出して、痛む胸に強く爪をたてる。
マイルたちの家の屋根の上。
そこに一人たたずんで、まるで自分を小馬鹿にするかのごとく、穏やかに流れていく風に、小さなつぶやきが溶けていく。
暖かいとは言えない季節を感じさせる風。
こんな、マイルの気持ちを知るよしもなく、無情に流れていく風に、本当に神様が存在するのだろうか。
「…………馬鹿ですね。」
だれもいないはずの場所に、人の声が響く。
静かな聞き覚えのある声。
何よりも。
ざわつく自分の中の声。
「レイシアか………。」
廃墟を見つめたままそうつぶやくと、背後から突然人の気配が現れる。
「はは。いつからいたんだい?」
小さく渇いた声で笑い言うマイルに、レイシアは空っぽな笑い声を上げる。
「かなり前からですよ。」
瞳に溜まった涙を消し去るように強くまぶたを閉じてから、同じように笑みを浮かべてマイルは振り向く。
「趣味が悪いな。
それにここは僕の家だよ?
勝手に侵入するなんて、感心できないなあ。」
肩をすくめてわざとらしく言うマイルに、レイシアは小さく笑う。
その何もない笑顔をマイルは笑みを消してにらみつける。
「それで?なんの用かな?
もう僕の『呪い』を食べに来たのかな?」
そのマイルの殺気にも、レイシアはまったく動じることなくにこにこと笑う。
「いえ、あながブルゴア公爵をおびき出してくれるまで、大人しくしていようかと思います。」
マイルは眉をひょいと上げて、驚いたような顔になる。
「………ふーん。
意外と協力的なんだ。
そこまでするんなら、ついでにあいつを殺すのも手伝ってくれない?」
冗談なのかそうでないのかわからない口調で言うマイルに、レイシアはまた笑う。
「はは、遠慮しておきますよ。
それに、公爵が殺されるのをむざむざ見届けるわけにはいきません。
彼が出てきたら、あなたの『呪い』は食べさせてもらいますよ。」