zinma Ⅲ
「………『白呪の民』にも、いくつかの預言は伝わっているとは思うけど……。
こっちにも預言は存在するんだ。
それに印してある大きな世界の変動が、まもなく訪れる。」
「変動……………?」
深い色合いの瞳でまっすぐに聞き返すレイシアに、マイルは目を逸らす。
「………本当は、君にそんなことを教えてやる義理はないんだ。
本来、僕たちは相反するものだからね。」
「じゃあ、なぜ教えるんです?」
マイルは空を見上げた。
廃れ、明かりもほとんどないこの街では、星は異常なほどたくさん見えた。
美しく瞬く星が、マイルには、自分を冷酷に監視する、無数の神の目のように見えて。
「………なんでかな。
よくわからない。
ただ、君が、今の代の『神魔』が、世界を大きく変えることは確かなんだ。
良い方向にも、悪い方向にも、ね。」
一度目をふせ、明かりの消えた、愛する妹がいるはずの廃墟を見下ろす。
彼女がこれから生きていく世界。
その先に待つのが、美しい光に満ちているのか、はたまた暗闇なのか。
それがこの少年に、かかっている。
「………君が『義務』を果たすために、最も大きな障害が、これから待っている。
それは、預言に記されるほど、大きな戦いだ。」
「……まさかそれは………
『漆黒』に、関係があるんですか?」
レイシアの言葉に、マイルはしばらく黙り込んでから、ゆっくりとうなずいた。
「…………うん。
君が、今までにもこれからにもないほど、優秀な『神魔』であるのと同じように、今回の『漆黒』も、力が半端じゃないよ。
それは、神が恐れるほどに。
いや、このままだと、神すら凌いでしまうのではないかって話すらあるんだ。」
それにレイシアが拳を強く握りしめるが、マイルは気にせず続ける。
「現在の『漆黒』契約者は、歴史にないほど最強の『黒龍』を従えている。」
「……『漆黒』の契約者についての情報は入ってきていないんですか?」
「うん。残念ながら、ね。
もともと『漆黒』は『呪い』にも属さず、孤立して行動してきたから。
だからこそ、『漆黒』は直系なわけだけど。
僕たちになんのコンタクトもとってこないから、それが今どのニンゲンの身体にいて、どれほどの力で、どの能力を持っていて、今どこにいるのか。
なんにもわからないんだ。」
お手上げなように空を仰ぎながら、マイルがそう締めくくる。