zinma Ⅲ
そのマイルの横顔をしばらく見つめ、レイシアは長いまつげをふせる。
預言。
マイルは、『白呪の民』、すなわちルミナ族にも、預言は伝わっていると言っていた。
そんな話は、聞いていない。
聞くかぎりでは、預言は、とても重要な情報源であるようだ。
もしかしたら、これからの進む道に関する情報も記されているかもしれない。
だが、預言なんて…………
ふせた目を、するどく細める。
「……………カリアとファギヌは、いったい…………」
「ん?」
レイシアのつぶやきに、マイルが聞き返してくるが、答えない。
カリアもファギヌも、預言なんてものは一切レイシアには教えなかった。
そこである考えが浮かぶ。
シギの記憶には、彼が両親から引き継いだ記憶には、預言のことは記されているのだろうか………?
何か考えこむようにほうけるレイシアをしばらく見つめ、マイルはふっと表情を崩した。
美しい。
美しすぎる目の前の悪魔の姿に、思わず神の存在を信じそうになる。
「………………ちっ。」
その自分の考えに舌打ちをし、マイルは立ち上がる。
レイシアはやっとそれに顔を上げ、マイルを見上げる。
不思議な、水色のような緑のような色合いの瞳を見下ろし、マイルは踵を返す。
「僕が君に教えられるのはそこまでだよ。
あとは、君が自分でなんとかしろ。」
後ろで、レイシアが立ち上がったような気配がする。
「ありがとうございます。
すごく、助かりました。」
透き通るその声に、マイルは振り向く。
「君が…………君が、本当に君の唯一の願いを達成できるかどうかは、君がいかに、『呪い』を利用するかだと思うな。」
「願い?」
小首を傾げるレイシアを見て、マイルは思わず嘲笑を浮かべる。
「君みたいな『神の犬』の考えることなんて、わかるよ。
君こそ、大馬鹿者じゃないか。」
しばらく黙り込み、そしてレイシアは少しうつむいて、初めて感情の浮かぶ笑みを浮かべた。
マイルはそれに、目を見開く。
彼は、今、自分がどんな顔をしているのか、わかっているのだろうか。