zinma Ⅲ
ひどく。
ひどく、悲しい、微笑み。
「………………そうですね。
ですが、私はそのために、生きているんで………」
「それが生きていると言えるかは別じゃないかな?」
遮るマイルの声に、レイシアはいつもの微笑みになって小さく笑う。
「はは。確かに。」
その、空虚以外の何者でもない微笑みをしばらくにらみつけ、マイルは今度こそ踵を返す。
「おそらく、ブルゴアが動き出すのは早朝。
僕は昼前には、奴のところへ行こうと思ってる。
君が遅刻でもしたら、先に奴を殺させてもらうよ。」
「ははっ。気をつけます。」
その声を背後に聞き、マイルは夜闇へと消えて行った。
そのマイルの背中を見送り、レイシアは大きく伸びをした。
満天の星空と、夜になると一気に冷え込んだ冷たい空気が、身体中を清めるように包む。
大きく息を吸い込めば、心地好い感覚が肺を満たしていくようだ。
「ん………………。」
それに、高まったままの鼓動が、少しずつ冷静を取り戻していくのを感じる。
近くに『呪い』の存在を感じていた『選ばれしヒト』が、暴れていたのだ。
『選ばれしヒト』が暴れる度、『呪い』が暴れる度、自分が、自分でなくなっていくような感覚が血液を駆け巡る。
「確かに……ガタが来はじめていますね。」
その感覚に、思わずそうつぶやく。
思っていたよりも、状況は深刻なようだ。
これから、『漆黒』までも吸収しなければならないのに、この調子ではすぐに身体が壊れてしまうだろう。
また一段、ニンゲンから乖離する必要がありそうだ。
今回の『呪い』を回収したら、それに挑戦してみよう。
いつの間にか、白みはじめた地平線を見つめ、レイシアは小さく、微笑んだ。