zinma Ⅲ
朝。
いつの間に寝てしまっていたのか、野宿には慣れたはずの身体がやけに痛む。
固い床に座った状態で寝て丸くなっていた背筋を大きく伸ばして、ダグラスはあたりを見回した。
レイシアの魔術によってほとんど埋められた壁の穴も、ところどころから朝の光が漏れている。
たき火のあとが残る向こう側に、静かに横になっているシギを見つめてから、ダグラスは慌てて自分の背後を振り向いた。
「……………。」
そこには昨日と変わらず、ティラが穏やかな寝顔で寝ていて。
それにダグラスは心底安心する。
またいなくなっていたらと思うと、一気に心臓が跳ね上がっていた。
「ん……………。」
そこで、小さく声を上げて動き、シギがゆっくりと身体を起こす。
「……………早いですね。」
まだはっきりとダグラスに焦点を合わせないままで、シギが小さくそうつぶやく。
シギの顔を見て、一気に現実に引き戻された。
昨日のティラの様子。
シギとの会話。
そして、レイシアの顔。
「………よく、眠れなかったからな。」
そう言ってまた振り向き、ティラの顔を見つめる。
そこで。
「おはようございます。」
壁と同じく魔術によって蔦で覆われていた窓から、蔦が生き物のように引っ込んでいく。
そこから現れたのは、やはりレイシアだ。
軽い身のこなしで窓を飛び越えると、指を振るってまた窓を蔦で埋める。
「師匠。」
そう小さくつぶやいてレイシアを真っすぐに見つめるシギの目をのぞき、レイシアは何かを悟ったかのように目をふせ、
「………そうですか。」
とつぶやく。
それにダグラスが首をかしげていると、レイシアはまた前を向いて真っすぐに二人のもとへ歩み寄る。
「さあ、今日で片をつけますよ。」
広い廃墟にこだまするレイシアの声。
「それは…………それは、ティラの兄の『呪い』を……」
「ええ、食べます。
ブルゴアも今日動き出すでしょう。
マイルさんに食いついて出てきたところを、叩きます。」
ダグラスの小さな声を、レイシアは躊躇なくさえぎる。