zinma Ⅲ
ダグラスは唇を噛み締めながらも、何も言い返せなかった。
それが最適の答えだと、一晩のうちに悟ったから。
マイルは、いつかは切り捨てなければならない。
もう助からない命なのだ。
それを絵空事の希望にたくして、いたずらに野放しにすることはできない。
助かる命まで、失う可能性がある。
そこでダグラスはまたティラの顔を見た。
昨日のティラの様子では、まだティラは兄のことを諦めきれないようだった。
もしもこのままマイルが生きていれば、ティラはいつまでも兄を追うだろう。
それを避けるためにも………
「おそらくブルゴアはすでにマイルさんの行方を追っているところでしょう。
今すぐに私たちも追いますよ。
もちろん、ティラさんは置いて行きます。」
まだ眠っているティラを指差して、レイシアはそう締める。
それにまだ顔を上げないダグラスに、レイシアが口を開こうとしていたところで、
「わかりました。
しかし、師匠は昨晩はどこへ行っていたんですか?」
遮るように声をかけたシギに、レイシアは一瞬黙り込む。
が。
「………どこと言われましても、散歩です。
とにかく、早く準備をしなさい。」
そう言ってプラチナの髪をなびかせながら踵を返すレイシアに、シギは納得したのかしていないのか、黙り込んで立ち上がる。
しかしそこで、レイシアがわずかに振り向き、肩越しに口を開く。
「ところで…………
あなた、預言について、何か知っていますか?」
廃墟にやけに響いたように聞こえた声。
「……………いえ。
預言とは……何ですか?」
シギは相変わらずの無表情でそう答えた。
預言。
師匠に関する、預言。
父さんと母さんが、最後まで師匠に言うことのなかった唯一の情報。
なぜ師匠がそのことを………
「………そうですか。
それなら、いいんです。」
静かにそう言って、レイシアはまた自分の荷物の置いてある部屋の端へと、歩いて行った。