zinma Ⅲ
ブルゴアは馬車に乗って移動していた。
馬車から顔を出すことなく、小さな窓から、さらにカーテンの隙間からわずかに顔を出しては、衛兵へと一言二言の指示を出している。
その様子を、3人は民家の屋根の影にうずくまりながら、慎重に見つめていた。
ブルゴアの指示にひとつうなずいた衛兵が、さらに他の衛兵にも命令を下し、数十人の衛兵が四方へ駆けていく。
相変わらず、街には住人の姿はなかった。
「………これは、マイルさんが見つかるのも、時間の問題でしょうね。」
レイシアがそう囁くと、シギもうなずく。
ダグラスだけは、その背後で緊張するように黙り込んだままだ。
その様子に気づき、レイシアはダグラスのほうへ振り向いて静かに言う。
「………ダグラスは隠れていなさい。」
思わず弾かれたように顔を上げるダグラスに、レイシアは鋭い瞳を向ける。
「今のあなたに冷静な判断が下せるとは思えない。
今のあなたは、足手まといにすぎません。
さらに言えば、あなたは王都の正騎士軍に第一級犯罪者として追われているんですよ?
顔はばれていないとは思いますが、万が一捕まって身柄が割れてしまえば、取り返しのつかないことになる。」
淡々と言葉を紡ぐレイシアに、ダグラスは返す言葉を失い黙り込む。
それを一瞥し、低い姿勢のままわずかに立ち上がってレイシアはシギへと合図を出す。
シギがうなずいてレイシアのあとに続く準備をする。
「あなたは万が一の場合の切り札です。
それまで、おとなしくしていること。
もちろんティラさんとの接触も控えてください。」
そこまで言うと、レイシアとシギは屋根づたいにどこかへと走って行った。
その背中を見送り、ダグラスはただただ自分の無力さに落胆したのだった。