zinma Ⅲ
それからレイシアは考えこむようにして、つづける。
「その商人には、軍からの伝言だと言ってください。隣町にミルドナの状況を嘘偽りなく伝えるようにと。」
それにシギが、
「いいんですか?この街の状況を正しく伝えるのは危険なのでは…」
と聞くと、
「かまいません。
多少信じられない話のほうが、適度な信用を得られますし、また忘れられやすいですからね。」
と言うので、シギはうなずき街の外の森へと走った。
そのシギの背中を見送り、レイシアはひとつ息をつく。
そしてあの戦闘のあとでもほとんど汚れていない服のほこりを払い、左腕の袖をめくる。
するとそこには、真っ黒な血管が浮かんでいる。
色白なレイシアの肌に、くっきりとこれ以上ないほど真っ黒な血管。
それはひどく不気味で、気色悪い。
それを一瞥してからレイシアは、
「ん………」
と小さく言い、自分の中の『選ばれしヒト』に集中する。
すると真っ黒な血管がどくどくと動いたかと思うと、徐々に色を失い、肌に消えていく。
それを確認してからまたため息をつき、身体を後方に倒していく。
このまま後ろに倒れれば頭を打ち付けるだろうが、レイシアは小さく一言言う。
するとレイシアが地面に当たる直前に、やわらかい風がレイシアを包み、ふわりと身体が浮く。
空中にねっころがるようにして、レイシアは力を抜く。
自分を抱き上げてくれている風の女神に微笑みかけてから、また一度思いっきり伸びをする。
首にかけた黄緑色の石を外し、太陽が迫り白み始めた空へと掲げる。
そのきらきらとした輝きを見つめながら、
「さあ、道はまだまだ長いですよ。」
と言った。
朝日が、昇る。