zinma Ⅲ



そうして花について語るルシールはとても楽しそうな顔をしていて、それを見てシギはふっと微笑む。


それに気づいてルシールは顔を赤くし、両手で頬を覆う。

「あ、私ったら……つい……」


それにシギは小さく笑うと、

「いえ、良いことではありませんか。
花が好きなんですね。」

と言う。



それにまだ顔を赤くしたルシールは、照れたように微笑みながら言う。

「ええ。小さいころから花の世話をしながら育ったんです。

毎年毎年同じことの繰り返しですけど、毎年その季節の花を楽しみにして生活して。

この街に産まれてよかったと思います。」


ルシールはトクルーナの特産だという花を触る。

薄いピンク色の小さな花びらがいくつも重なった、小さなバラのような花。



「これ、1輪摘んでもいいですか?」



シギが突然そう聞くので少し驚きながら、

「え?ええ、もちろん…」

とルシールが答えると、シギは壊れ物を扱うように、優しくその花を摘む。


「この花の名前は?」


またルシールにそう聞くと、

「ルシールっていうんです。
この花の開発に成功したときに私が産まれたので、私はこの名前をもらったんですよ。」

とルシールが微笑む。



それにシギもやわらかく微笑み返し、

「そうだったんですか。
ルシール、というんですね。」

と言い、花を見つめる。



それにまたルシールはなぜか顔を赤らめる。


そのとき、ぱちん、という音とともに、ルシールの髪をまとめていた紐がちぎれる。


「あっ。」

とルシールが小さく言ったときには、すでにルシールの栗色の巻き毛がふわりと肩に降りる。



「あら、どうしよう。」

と言って、少し焦りながらルシールが自分の髪を触る。



その顔を一度見つめてから、シギはルシールの髪へと手をのばす。


「え?」


と言って焦るルシールをよそに、シギはルシールの髪を触る。





< 44 / 364 >

この作品をシェア

pagetop