zinma Ⅲ
最後の休息
ルシールは自分の部屋に入ると、キッチンから持ってきた水の入ったコップを、テーブルの上に置く。
そして髪にさしたルシールの花を外し、そのコップにいけた。
その花を見て、ルシールは思わず頬がゆるむ。
そこではっとして、
「いけない。私ったら。」
と言って、少し熱くなった顔を手で覆う。
しかし今日のシギの微笑みが頭から離れなくなっていた。
『この花、あなたに似ていると思っていました。』
と言ってルシールの髪を触ったシギ。
あのとき、ルシールが見たシギの微笑みはきれいだった。
ルシールが男の人の顔を見て、きれいだと思ったのは始めてだった。
紺色の長髪はまっすぐでつやつやとしていて、切れ長の金色の瞳は澄んでいた。
いつもは無表情で無愛想に見えるのに、時々見せる微笑みはだれよりも温かかった。
その顔を思い出すだけで、ルシールの顔は上気する。
「………参ったなあ。」
とそうつぶやいて、ルシールは顔を手であおぎながらベッドに座る。
シギは確かにきれいだし、とても優しい。
だが、結局は宿の客であり、さらに旅人なのだ。
いつかは、去ってしまう。
それになぜか涙が出そうになり、ルシールは考えるのをやめようと首を振る。
「ただのお客さんよ。
ただの、お客さん……。」
だれもいない部屋でそうつぶやく。
そう言って一度目を閉じ、
「よしっ。」
と意気込んで、頬を一度叩く。
そして明日に備えて、寝る支度を始めた。