zinma Ⅲ
「王都を出るとき、『万感』を使います。
できるだけ広い範囲に行き届くように発動し、残った『呪い』の位置を把握しようかと思います。」
そう言ってから、レイシアは胸に置いた本を顔にかぶせ、続ける。
「力を最大限に使うためにも、命の消費に耐えるためにも、トクルーナでゆっくりしようと思います。」
そうしてしばらくすると、レイシアの穏やかな寝息が聞こえ始める。
そのレイシアを見つめ、シギはうつむく。
本の下のレイシアの表情も、さらにその下に隠れたレイシアの決意も、シギにはわからない。
レイシアにはもう感情がないということは、聞いている。
ならば、死に対する恐怖もないのだろうか?
毎日蝕まれる自分の命に、悲しむことはないのだろうか?
毎日、痛みに苦しむことはないのだろうか?
レイシアは力を使えば、いつ命がつきてもおかしくない。
『呪い』を吸収すれば、いつ身体が壊れてもおかしくない。
さらにレイシアのもうひとつの義務が示すレイシアの運命は………
それにシギは自分の顔が悲しく歪むのを感じ、考えを止める。
そしてレイシアに毛布をかけ、顔に置かれた本を片付けると、部屋の唯一の明かりであった蝋燭を消す。
そして自分も毛布に潜り込み、すぐに深い眠りに落ちていった。
シギが寝たのを確認すると、レイシアは起き上がった。
そのまま窓際へ近づき、月を見上げる。
あと何回、こうして月を見ることができるのだろうか。
力を使うことに、恐怖は感じない。
ただ、最後までやり遂げるために、正確に先を見据え計算しながら、力を使うか使わないか決める。
その計算が正しいのか、ということに多少の不安は感じるが、命を削られても、何も感じない。
最後まで、やり遂げることを考えると、そんなことなんの苦でもない。
自分の最後は………
今夜は、月が、やけに美しい。