zinma Ⅲ
翌日。
昇ったばかりの朝日がおだやかな光を部屋に届かせていた。
小鳥のさえずりがあちらこちらから聞こえてくる。
シギが朝起きると、隣のベッドにレイシアはいなかった。
ベッドはきれいに整えられているので、早くに起きてどこかへ行ったのかもしれない、と思いシギは気にしない。
レイシアが朝や夜にいなくなるのはよくあることだった。
着替えをすませ宿の1階へ降りていこうとすると、シギの髪を結ぶ髪紐が見つからない。
それにシギは髪をおろしたまま、下へと降りる。
宿の1階は出来立ての朝食の美味しそうな香りがただよっていた。
食堂へ入ると、すでにルシールがキッチンの中で料理をしているのが見えた。
「ルシールさん。」
そう声をかけるとルシールは顔を上げ微笑んで、
「シギさん。おはようございます。ずいぶん早いんですね。」
と言うが、はたとシギの髪を見て、
「あら、髪、どうされたんですか?」
と聞く。
それにシギが、
「おはようございます。
それで、頼みがありまして。
髪紐をなくしてしまったので、1ついただけませんか?」
と頼むと、
「もちろん。ちょっと待っててくださいね。」
と言って駆けていこうとするが、足を止める。
「あ………
あの。今はこれを使っててください。」
と言って、自分の髪を束ねていた紐をほどく。
ふわりとルシールの髪が肩に落ちる。
シギはそれを受け取りながら、
「いいんですか?」
と聞く。
ルシールは微笑んで、
「ええ、もちろん。
シギさんがそれでよろしければ。」
と答えるので、シギは礼を言い、食堂の椅子に座ってから髪を束ね始める。
つやつやの真っすぐの髪は軽く撫で付けるだけて綺麗にまとまる。
シギが紐で結ぼうと紐をまくたびに、髪がさらさらと揺れ、紺色に輝く。
ルシールはしばらくその様子に見とれているが、はっと我に帰り、
「あ、朝食もうじきですから、ちょっと待っててくださいね。」
と言ってキッチンに戻る。