zinma Ⅲ



翌日。




昇ったばかりの朝日がおだやかな光を部屋に届かせていた。

小鳥のさえずりがあちらこちらから聞こえてくる。


シギが朝起きると、隣のベッドにレイシアはいなかった。

ベッドはきれいに整えられているので、早くに起きてどこかへ行ったのかもしれない、と思いシギは気にしない。


レイシアが朝や夜にいなくなるのはよくあることだった。




着替えをすませ宿の1階へ降りていこうとすると、シギの髪を結ぶ髪紐が見つからない。


それにシギは髪をおろしたまま、下へと降りる。



宿の1階は出来立ての朝食の美味しそうな香りがただよっていた。

食堂へ入ると、すでにルシールがキッチンの中で料理をしているのが見えた。


「ルシールさん。」


そう声をかけるとルシールは顔を上げ微笑んで、

「シギさん。おはようございます。ずいぶん早いんですね。」

と言うが、はたとシギの髪を見て、

「あら、髪、どうされたんですか?」

と聞く。


それにシギが、

「おはようございます。
それで、頼みがありまして。
髪紐をなくしてしまったので、1ついただけませんか?」

と頼むと、

「もちろん。ちょっと待っててくださいね。」

と言って駆けていこうとするが、足を止める。



「あ………
あの。今はこれを使っててください。」

と言って、自分の髪を束ねていた紐をほどく。

ふわりとルシールの髪が肩に落ちる。


シギはそれを受け取りながら、

「いいんですか?」

と聞く。


ルシールは微笑んで、

「ええ、もちろん。
シギさんがそれでよろしければ。」

と答えるので、シギは礼を言い、食堂の椅子に座ってから髪を束ね始める。



つやつやの真っすぐの髪は軽く撫で付けるだけて綺麗にまとまる。

シギが紐で結ぼうと紐をまくたびに、髪がさらさらと揺れ、紺色に輝く。


ルシールはしばらくその様子に見とれているが、はっと我に帰り、

「あ、朝食もうじきですから、ちょっと待っててくださいね。」


と言ってキッチンに戻る。




< 50 / 364 >

この作品をシェア

pagetop