zinma Ⅲ
食事を片付けると、ルシールはルウを起こし、宿の番を頼んだ。
そして準備を整えると、2人はさっそく村へ出て行った。
少し石畳を歩くと、少し大きめの木製の馬車止まっているのが見えた。
屋根のないその馬車は、どちらかというと大きな荷車といった感じで、荷台にたくさんの物資が積んであった。
肉や魚。野菜に調味料。
綺麗な布や美しく輝く糸の塊もある。
そこへルシールが駆け寄ると、荷物をごそごそと触っていた初老の男性が振り向く。
口ひげを生やした、気の良さそうな小太りの男だ。
「やあ!ルシールじゃあないか!」
と言って元気の良いあいさつをする。
「おはようございます、トーヤさん。」
トーヤと呼ばれた商人はそれに笑顔を返し、シギに目を止める。
それにシギも、
「おはようございます。」
と頭を下げると、トーヤは驚いたようにシギとルシールを交互に見る。
それから大きく笑うと、
「はっはっは。
ルシールも水臭いじゃないか!
お相手が見つかったんなら教えてくれたっていいだろうに。」
と言って、シギをしげしげと眺め、
「それにしてもずいぶんな男前だねぇ。
やるじゃないか、ルシール。」
と言い、うんうんとうなずく。
一気に言うそのトーヤの言葉に呆然としていたルシールがそこではっとし、
「ち、ちがうのよ!
シギさんはそんなんじゃなくて…」
と真っ赤になって言う。
しかしトーヤはそれが聞こえないかのように、わかったわかったと言った様子でまたうなずき、
「シギっていうのかい。
良い名前じゃないか。
名前からして北の遊牧民の出だね?」
と、シギを見て言う。
突然話をふられ、シギもとりあえず、
「あ、はい。クル山脈のあたりです。」
と答える。
するとトーヤが驚いたような顔をしてから、
「クル山脈かい!
そりゃまたずいぶん遠くから来たもんだ。」
と言ってから、ルシールを突いて言う。
「あのあたりの男ってのは頼りになるし、女を大事にするよ。
なかなか目が良いじゃないか。」
と言う。