zinma Ⅲ
それにいよいよ顔を真っ赤にしたルシールが、
「もうっ!だからシギさんはそんなんじゃないんだったら!
宿のお客様なのよ!」
と言う。
それにやっとトーヤはルシールの言葉に反応する。
「客?」
ルシールはそれにまだ赤い顔を手であおぎながらため息をつく。
「そうよ。お客様。
旅をしてらして、たまたまトクルーナに立ち寄ってくださってるの。」
それにトーヤがあからさまに残念そうな顔をして、
「なんだい、そうだったのか。
てっきりルシールの婿かと思ったよ。」
と言う。
それにシギは小さく笑って、
「すみません。
改めて、いまルシールさんの宿でお世話になってる、シギ・サンと言います。」
と言う。
それにトーヤはころっと表情を明るく変え、
「いやいや!よろしく。
わたしはトクルーナの花たちにご飯を食べさせてもらってる王都の商人でね。
トーヤ・グルームというものだ。」
と言う。
それから親しげににこにこと笑いながら、
「クル山脈から来たってことは、これから王都に行くんだね。
一人旅かい?」
と聞く。
それにシギもにっこり笑いながら、
「いえ、もう一人いっしょに旅をさせてもらってる人がいまして。
その人の旅に同行させてもらってるんです。」
と言ったところで、
「それは私のことですか?」
と言う声が聞こえる。
するとトーヤの荷車の影から、ひょいっとレイシアが頭を出す。
それにシギが驚いていると、
「レイシア。お前がこの男前の連れなのかい?」
と言ったのは、トーヤだった。
「ええ。連れがいるって言ってませんでしたっけ?」
とレイシアがおどけるように笑うと、トーヤがわざと怒るように腰に手を当て、
「聞いてないさ!
よく考えたらお前が旅人だってこともはっきりは聞いてないんだからなあ。」
と言い、笑う。
「隠してたつもりはないんですがねぇ。」
とレイシアが笑いながら言い、立ち上がりこちらに歩いてくる。