zinma Ⅲ
レイシアは自分の部屋の窓から外を眺めていた。
椅子を窓際によせ、窓枠に左肘をつき、右手で頬杖をついていた。
ルウが何やらはしゃぎまわったかと思うと、ルシールの背中を押して花畑を出る。
ルシールはしばらく戸惑った様子だったが、すぐにシギが歩いて行ったほうに歩き始めた。
それをレイシアはおもしろそうな顔でながめる。
しかしひとつため息をつくと、ひどい無表情になる。
窓に背を向け、肘を窓枠にかけて首を後ろに倒し目を閉じる。
全身の力を抜き、また大きくため息をつく。
最近のレイシアにとって、人間らしく振る舞うのが何よりも辛い労働だった。
表情をころころと変え、目の前で起きる出来事すべてにいちいち反応しなければならない。
だからこうして一人になり、無心でいる時間は大切だった。
そして自分の中で暴れるものたちのことに思いをはせ、それにすら全く反応しない自分の人間であった部分に、小さく笑った。
シギはすでに姿を消していたが、なんとなくの癇でルシールはあとを追っていた。
花畑の仕事でかいた汗をエプロンで拭き、乱れた髪を丁寧に結び直しながら歩く。
しばらく村の中を歩き、この村でも特に大きな花畑の前に着いた。
その脇にある草原に、シギは座っていた。
足を投げ出し、手をついて空を見上げている。
紺色の髪をほどき、風に流されるままにしていた。
目を閉じているようで、ルシールが近づくのに気づかないようだ。
寝ているのかもしれない、と思い、ルシールはなるべく静かにシギに近寄った。
「ルシールさんですね…。」
目を閉じたまま静かにシギが言うので、思わず驚いてこけそうになりながら、なんとか耐える。
「なんでわかったんですか?」
それにシギはまだ目を閉じたまま小さく笑い、
「気配で。」
と答える。
その笑い方があまりにも弱いので、
「隣に座っていいですか?」
と聞く。
シギは無言で小さくうなずく。