zinma Ⅲ
ルシールはシギの隣にそっと座る。
膝を抱き、シギのように髪をほどき、遊ばせる。
「気持ち良い風ですね。」
と、できるだけ明るい声を出す。
しかしそれにシギは何も反応しない。
ルシールはそれに自分も悲しい気持ちになりそうになりながら、顔が歪むのを耐える。
すると、
「私はクル山脈の中の、小さな山で育ちました。」
突然話し始めるシギに驚きながらも、シギを見つめて聞く。
シギはまだ空をあおぎ目を閉じたまま続ける。
「そこは高知でしたから、まわりにあるのは草原と針葉樹の森ばかりだった。」
風が吹く。
「家畜を育て、なんとか毎日を生きていくような生活だったけど、嫌いじゃなかった。
しかしある日、師匠が村に来た。
師匠は私にとって、すごい衝撃だった。
師匠は……
私の天命そのものだと思った。
師匠が現れて私の世界は全く別のものになった。
だから師匠に着いて行くというのが、自分の天命であるということになんのためらいもなかったし、疑いもしなかった。」
そこでシギは目を開ける。
「でも、この街に来て、自分の決意が揺らいでいるんです。
この街は、私の中の平和そのものだ。
寒い場所で育った私は、これだけの花を見たのは初めてで、自由に生きているのも初めて。
こうやって毎日同じ生活をしているのに、不自由だとは思わない。
充実した生活を送れる。」
そこでシギは空を見つめていた目をルシールに向ける。
「師匠に、これからのことをよく考えろと言われました。
ここに残るか、旅を続けるか。」
ルシールはそれに目を見開き、言葉を失う。
それにシギは自嘲するように笑ってから、
「3日後にここを発つときまでに決めるようにと言われましたが、正直自信がないんです。
それまでに決断できるのか。」
そう言い、身体を後ろへ倒して仰向けになる。