zinma Ⅲ
「どうしたらいいんでしょうね。
って言っても、ルシールさんに言っても困らせるだけでしょうが。」
そう言ったっきりシギは黙ってしまう。
ルシールもしばらく、広い花畑を見つめ考えこむ。
そしてしばらくして、
「シギさんにとって、旅とこの街は、簡単に言ってどんなものなんですか?」
そうルシールが聞く。
シギは少し黙ってから、
「旅は、私の天命。この街は、平和です。」
と答える。
するとルシールは花畑をながめたまま、独り言のようにぽつりぽつりと話しはじめる。
「…シギさんはいま、そのどちらが大切かということに、迷っているんですよね?
でも、それが間違っているのかもしれませんよ。」
それにシギが起き上がってルシールを見る。
ルシールはそのシギの目をまっすぐに見つめ、続ける。
「大切なものがいくつもあっていいじゃないですか。
人間とはそういうものだと思います。
いくつもある大切なものを、一生かけて、ひとつひとつ手に入れていくのが人生なのでは?」
それからまた花畑を見て、続ける。
「シギさんにとっての大切なものが、たまたま旅という人生をかけたものが含まれているから、どうしても焦ってしまうかもしれませんけど…
でも結局は、旅は旅。平和は平和です。
どちらかを手に入れたあとで、どちらかを手に入れても遅くはないと思います。
問題は、どちらを先に目指すか、ということだと思いますよ?」
そこまで言ってルシールはシギを照れたように微笑んで見つめる。
「なんて、えらそうなこと言っちゃいましたけど。
私はそう思うという話です。」
しかしシギはただルシールを驚いたように見つめたままで、動かない。
「えっと……大丈夫ですか?」
ルシールのその声にシギがはっとして、突然噴き出し笑い始める。
突然笑い出したことと、初めて見るシギの大笑いにルシールは唖然とする。