zinma Ⅲ
しばらく笑い続けてやっと落ち着くと、シギは言う。
「はは、ああ、こんなに笑ったのは生まれて初めてです。
何かが自分の中から消えた気がします。」
それにルシールが首をかしげると、シギがルシールの澄んだ碧眼を見つめ、言う。
「ルシールさん。あなたは素晴らしいですね。ほんとうに。
いままで凝り固まっていた私の心が、いま一気に柔軟になった気がします。
つっかえが取れたような、そんな清々しい感覚だ。」
そしてまた小さく笑うと、
「確かにその通りです。
私は何を焦っていたんでしょう。
きっと今までの私にとっての世界というのが、私が育ったあの山と、師匠との旅だけだったから。
だからまだ自分の意思というのを自分のものにできていなかったのかもしれません。
天命だけに、生きてきたから。」
それからまた仰向けになって草原に寝転がると、
「こうして、先の見えない世界に賭けてみるのも良いですね。」
と言って伸びをする。
あまりにもその姿が少年らしくて、無防備だったのでルシールは思わず笑う。
そして自分も草原に横たわると、
「元気になって、よかったです。
それに、やっと素のシギさんを見られた感じがします。」
と言う。
ルシールのその言葉にシギは少し黙り、真剣な声で言う。
「あなたのおかげです。ルシールさん。
あなたのおかげで私の世界は広がった。」
それにシギのほうをルシールが見ると、シギは真剣な瞳でルシールを見つめていて、ルシールも目を離せなくなる。
「本当に、ありがとうございます。」
それにルシールは自分の顔が赤くなっていくのを感じ、思わず顔をそむける。
それから急いで立ち上がり、
「い、いけない!
もう昼食の準備しなくちゃ。」
そう言って、
「シギさんも一度宿に戻りましょう。」
と言って振り返る。
シギはその様子に少し笑い、起き上がると、
「たしかに…
ルシールさんも私の別の天命かもしれないな。」
と言うが、
「え?」
とルシールが聞き返す。
それに首を振ると、
「さあ、昼食に戻りましょう。」
と言った。