zinma Ⅲ



昼食のために宿に戻ると、部屋にレイシアはいなかった。


そのうち帰ってくる、と昼食をルシールとルウとシギで食べ、ルウは外に遊びに行った。



食後の紅茶を飲みながら、ルシールは少し緊張した様子で聞いた。

「レイシアさんにはなんと返事するんですか?」



するとシギは飲んでいた紅茶の入ったカップを置き、答える。


「まだ、わかりません。
………しかしおそらく、旅を選ぶでしょうね。」

そう言って窓の外の景色をまぶしそうに見つめると、

「私にはまだ時間はありますが、師匠には時間がないんです。」

と独り言のように言う。


「どういうことですか?」


とルシールが聞くと、

「いえ、なんでもありません。」

と言ってまたルシールを見つめる。


「ですから、あとの3日間。
とにかくこの街の平和を満喫して、十分楽しもうと思っています。

次に、ここに帰って来るときまで、忘れないように。」




それにルシールは答えず、握りしめたカップの中の紅茶を見つめていた。







シギはそれからも村の中を散歩してまわった。

花を見つめ、風を感じ、景色を目に焼き付けた。



シギが出かけたあと。


ルシールは自分の部屋に戻り、今朝買い物に持っていったバスケットの中から、糸の玉を3つ取り出す。

金色に輝く糸と、きれいな赤の糸と、紺色の糸。

今朝の買い物は、ほとんどこれを買うのを目的に行ったのだ。


ルシールはそれを持ってベッドに座り、さっきシギのことを思い出す。


大笑いしたときの少年のような顔。

草原に寝転がったときの無防備な姿。



そして、


『旅を選ぶでしょうね。』

『次に、ここに帰って来るときまで、忘れないように。』


という言葉。



それにルシールは一気に悲しみが込み上げてくる。

目を閉じて涙を流さないようにこらえる。

シギに忠告をしたときから、決めたのだ。

シギがどの選択をしても、笑顔で見送ると。



そしてルシールは目を開き、糸を解き始めた。




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