zinma Ⅲ



その日レイシアは結局帰って来なかった。

しかし次の日の朝シギが目を覚ますと、すでに宿の食堂で朝食を待っていた。


レイシアは食堂に降りてきたシギを見て、

「おはようございます。」

と言ったあとシギをじっと見つめ、何かを悟ったように微笑むと、

「本当にそういうところはカリア譲りですよねぇ。」

と言う。


「なんです?」


とシギが聞くが、レイシアはそれに微笑みだけを返すと、


「ルシールさん。今日はどんな予定ですか?」


と聞く。

ルシールはそれに料理をしながら、

「いつもと同じですよ。
宿の仕事と花の世話くらいです。」

と答える。


レイシアはすっと視線をシギへと移すと、

「あなたは?」

と聞く。


それにシギは、

「そのことなんですが……
ルシールさん。」

とルシールを呼ぶと、ルシールが顔を上げる。

「頼みがあるんです。」

「なんでしょう?」


それにシギは少し微笑んで、

「今日一日私に付き合ってもらえませんか?」

と言う。



ルシールはしばらく呆然とシギを見つめ、そのうちみるみる顔を赤らめると、

「……え?今日一日ですか?
えっと…どうしましょう…」

と慌てる。


するといつ起きてきたのか、ルウが食堂にひょっこりと顔を出し、


「ねーさん!仕事は全部やっておくから。」

と言う。それにシギとルシールが驚いてそっちを見て、

「ルウ?でも、あなただけじゃさすがに…」

とルシールが言うが、それを遮るようにまったく驚いていなかったレイシアが、

「あ、ルウさん。花の世話の仕方を私にも教えていただけませんか?」

と言い、ルウがうれしそうにレイシアに駆け寄り、

「もちろん!じゃあ朝食が終わったらレイシアも花畑行こっ!」

と言う。



そのやりとりを少しながめてから、ルシールが照れたように微笑みながらシギを見て言う。


「えっと…じゃあそういうことなので、お付き合いしますね。」



シギもそれにふわりと微笑んだ。




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