zinma Ⅲ



その微笑みを少し見つめてから、シギは上半身を起こす。

それにルシールも起き上がり、髪を指でといて綿毛を取りながら、聞く。


「どうしたんですか?」


それにシギはルシールのほうに向き直り、言う。


「もうひとつ、わがままを言ってもいいですか?」


ルシールはそれに微笑み返し、

「もちろん。私が叶えられることなら。」

と答える。



シギはまだルシールの髪に絡まった綿毛に手をのばし、そっとそれを取りながら、言う。


「ルシール、と呼んでもいいですか?」


それにしばらくルシールはシギの目を驚いたように見つめ、すぐに頬を両手でおさえる。

目をうるませ、手では隠しきれないほど顔を真っ赤にさせる。


その様子にシギは笑いながら、

「それ、照れたときの癖なんですね。」

と言う。


それにルシールはあわてて一瞬両手を離そうとするが、自分の顔がさらに赤くなるのを感じたのか、またおさえる。


それを見てシギがさらに笑うと、ルシールは焦ったように、

「だ、だって……
すごく…その……恥ずかしいので…」

と言う。


「だめですか?」

とシギが聞き返すと、ルシールはあわててぶんぶん首を横にふる。

それにまたシギは笑い、

「では、ルシール。」

と呼ぶ。


ルシールはそれを聞いてもう堪えられないようにシギに背を向け、顔をぱたぱたと両手で仰ぐ。

そのまま、

「い、いいですよ。
その代わり、敬語もやめてください。」

と言う。


シギはその背中に微笑んでから、

「敬語は物心ついたころから使っていたので、敬語をうまくやめれるかわかりませんが、やってみます。」


と言う。


ルシールはまだ向こうをむいたままそれにうなずく。

そして少し赤みのおさまった顔で振り向き、

「じゃあ、名前呼び捨てでかまいません。」

と言う。



そのルシールの顔にシギは少し笑い、立ち上がる。

ルシールに手を差し延べ、言う。


「はしゃいだらお腹が減ったな。
昼食、食べよう。」



シギの少年らしい口調にルシールは微笑み、シギの手をとった。



< 68 / 364 >

この作品をシェア

pagetop