zinma Ⅲ
その微笑みを少し見つめてから、シギは上半身を起こす。
それにルシールも起き上がり、髪を指でといて綿毛を取りながら、聞く。
「どうしたんですか?」
それにシギはルシールのほうに向き直り、言う。
「もうひとつ、わがままを言ってもいいですか?」
ルシールはそれに微笑み返し、
「もちろん。私が叶えられることなら。」
と答える。
シギはまだルシールの髪に絡まった綿毛に手をのばし、そっとそれを取りながら、言う。
「ルシール、と呼んでもいいですか?」
それにしばらくルシールはシギの目を驚いたように見つめ、すぐに頬を両手でおさえる。
目をうるませ、手では隠しきれないほど顔を真っ赤にさせる。
その様子にシギは笑いながら、
「それ、照れたときの癖なんですね。」
と言う。
それにルシールはあわてて一瞬両手を離そうとするが、自分の顔がさらに赤くなるのを感じたのか、またおさえる。
それを見てシギがさらに笑うと、ルシールは焦ったように、
「だ、だって……
すごく…その……恥ずかしいので…」
と言う。
「だめですか?」
とシギが聞き返すと、ルシールはあわててぶんぶん首を横にふる。
それにまたシギは笑い、
「では、ルシール。」
と呼ぶ。
ルシールはそれを聞いてもう堪えられないようにシギに背を向け、顔をぱたぱたと両手で仰ぐ。
そのまま、
「い、いいですよ。
その代わり、敬語もやめてください。」
と言う。
シギはその背中に微笑んでから、
「敬語は物心ついたころから使っていたので、敬語をうまくやめれるかわかりませんが、やってみます。」
と言う。
ルシールはまだ向こうをむいたままそれにうなずく。
そして少し赤みのおさまった顔で振り向き、
「じゃあ、名前呼び捨てでかまいません。」
と言う。
そのルシールの顔にシギは少し笑い、立ち上がる。
ルシールに手を差し延べ、言う。
「はしゃいだらお腹が減ったな。
昼食、食べよう。」
シギの少年らしい口調にルシールは微笑み、シギの手をとった。